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産業技術総合研究所 熱に弱い材料からナノ構造を再現する金型作製技術【金型テクノラボ】
金型作製プロセスでは原型に熱が影響することから、原型としての材料選択肢は少ない。産業技術総合研究所では構造を高精度に保存可能な金属薄膜を40度で成膜することができる低温成膜技術を開発した。この技術で3万個以上の小さな眼で360度を見渡すトンボの複眼を金型化する方法を解説する。
トンボ複眼を再現、撮像に成功
超撥水や防曇機能など、動植物から構造機能を学び取る「バイオミメティクス」はすでに社会に広まり、現在においても研究開発が進んでいる。本研究では機能を持つバイオ試料そのものを原型として微小構造までを再現可能な金型を作製し、レンズとして機能するトンボ複眼を樹脂及びガラスで再現し、撮像することに成功している。

※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)
低温成膜技術を開発
対象の構造を高精度に保存する質の良い金属薄膜を形成する手法として「マグネトロンスパッタリング」が挙げられる。これは金属粒子をプラズマ粒子で飛び散らせる技術で、飛び散った金属粒子が原型に衝突し、堆積することで薄膜となる。この衝突時に加速された電子も原型に衝突するため、急激な温度上昇が生じてしまう。既存の装置では基本的に100度まで即座に昇温する。これでは原型として使用できる素材は耐熱性の高いものに限られる。そこで産業技術総合研究所では磁場を活用した電子とプラズマの閉じ込め技術によって、金属粒子のみを原型に衝突させることで昇温問題を解決した。細胞レベルのサンプルにも構造を壊すことなく金属を成膜することに成功している(QRコード参照)。

※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)
熱ダメージなく金属薄膜を生成
図1に既存技術と低温成膜技術の比較とトンボ複眼の金型化への手順を示した。低温成膜技術を活用することでトンボの複眼上にも熱ダメージなく金属薄膜を施すことができた。この金属薄膜に対して、低応力な電鋳法として金型作製にしばしば活用されているニッケル電鋳を実施することで強靭な金型としている。本研究では複眼上に存在するナノサイズの構造も再現するため、最適化したパラメータと電鋳速度で実施することによって、極限まで応力を抑えることに成功した。
金型の作製は金・白金・タングステンを用いており、いずれの金属材料でも金型上にはトンボ複眼の均一かつ多数あるハニカム構造が保存されていた。金型自体の耐熱性は材料に依存しており、タングステンを使用することでナノ構造であっても1000度の高温帯まで構造を維持したまま成型が可能であることも確認した。
磁性を活用し流し込み成型
本技術で作製した金型は、ニッケルが主な金型の材料となるため、金型自体が磁性を有する。この特性を活用した樹脂の流し込み成型による複眼レンズ再現試験を実施した。材料は透明性の高いポリマーであるエポキシ樹脂を用いている。レンズの機能性を発揮するためには一定度の薄さを保つ必要があるが、磁気攪拌による遠心力と加熱を同時に実施することで、薄いエポキシ樹脂製複眼レンズの流し込み成型に成功している。
ナノ領域の微細構造を再現
流し込み成型した複眼レンズを通して産業技術総合研究所の英字ロゴ(AIST)の文字列を撮像すると、個眼の1つひとつにロゴが投影された(図2)。これは流し込み成型のみでトンボの機能を再現できたことを意味している。さらにトンボは雨でも飛べるように水滴の付着を防ぐナノ構造を複眼上に形成している。作製した複眼レンズに水蒸気を噴霧すると、水滴が付着しなかった。そのため、構造再現はナノ領域の微細な構造まで可能であることが証明された。原型の熱耐性を気にすることなく多様な金属を成膜可能な低温成膜技術は金型作製の可能性を拡張した。
自動運転などの活用に期待
今後、レンズを金型で繰り返し作成できることで、光学特性の最適化や複眼撮像の画像処理といった実用化に向けた研究が加速することが期待される。トンボが持つ360度の視野をそのままの大きさで再現し、ドローンや自動運転での事故防止などに寄与することができると考える。さらに多機能な生物構造に対して実施し、再現可能な複雑さについても検討を重ねていく。
産業技術総合研究所
- 執筆者:センシングシステム研究センター 主任研究員 竹村 謙信氏
- 住所:佐賀県鳥栖市807-1
- 電話番号:050・3522・7308
金型新聞 2025年2月10日
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