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【新春特別インタビュー⑥】岐阜大学副学長・王 志剛氏「金型は最適な教育ツール」

モノの本質を学ぶ場 金型は最適な教育ツール 企業との接点が重要 〜次世代人材の教育〜

 1963年生まれ、中国・黒竜江省出身。工学部・機械工学科教授、研究テーマ:プロセス・トライボロジー、型工学、冷間鍛造・板鍛造。92年に名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程修了(工学博士)後、富山県立大学などを経て97年に岐阜大学へ。2006年に同大学工学部教授、14年同大学副学長(産官学連携担当)、20年同大学副学長(研究・産学連携・情報担当に就任。

 岐阜大学は2006年に金型創成技術研究センターを設け、金型の概論、工程設計・型設計、金型製作、トライと基礎となる金型教育プログラムを実践しています。さらに、3年前からスマート金型開発拠点事業が始まり、企業も参画する研究開発チームに10人ほどの修士学生も加わり、AI解析やデータ処理、機械学習など未知の領域に対する高度な研究を行っていますが、学生たちにモノの本質を考える力を身に着けるという大学教育の本質に変わりはありません。

 社会人になると一般的にコミュニケーション能力が問われますが、スマート金型プロジェクトは異なる企業文化を持つ技術者たちと学生が参加し、誰も分からない課題に取り組んでいます。そうした暗中模索の中で、学生も含めアイデアを出し、解決しようと取り組むことは学生たちも共同研究者として貴重な経験の場になり成長につながります。スマート金型は機密保持に関係することも多いため、学生はスマート金型以外で修士論文を書かねばならず、普通の学生より忙しい日々を過ごしていますが、プロの技術者と同じように議論や提案する機会はなかなか得られるものではなく、やりがいを感じています。

 そうした先端技術が変化するにつれ、教育の中身も変化が必要です。岐阜大学の強みは様々な専門分野の教授が揃い、同じ目線で新しいことに挑戦する風土が出来ていることです。スマート金型開発拠点は我々に十分な準備があったわけではなく、1からのスタートで、文部科学省の補正予算公募も2週間で提案書をまとめました。さらに、1年の準備期間を経て2年目から学生の教育プログラムに組み込んでいくスピードは主要スタッフの力にあると思います。

 ですが、技術の高度化や新たな専門分野を作ろうとも、学生の基礎的素養は問題の発見能力、整理能力、解決能力が備わっているかどうかだと思います。大学教育は4年と修士課程の2年で専攻分野を勉強していても、コアな知識以上に、それを通じてモノの考え方を持つことが大学教育では大切です。企業が学生に求める能力は様々ですが、私は専門教育を通じて問題発見、解決するアイデア、他の人とディスカッションする能力を身に着ければ、大学教育として成功だと考えています。

 そうした基礎能力を身に着ける意味で金型は最適な教育ツールです。金型を作ってトライして問題を見つけ解決する。単純な絞り型ではシンプル過ぎますが、何工程もある順送金型を製作するのは難しいため、その試行錯誤のレベルが教育に適しています。これほど教育ツールで魅力的なものはなく、効果が得られるのは金型だけではないでしょうか。

金型新聞 2021年1月10日

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