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芝浦機械 工作機械カンパニー
工作機械技術部第一開発課 シニアエキスパート 天野 啓氏
〜鳥瞰蟻瞰〜

目指すは「恒・高精度化」それを見極められる人の育成が、より重要に
超精密金型の世界で目指すべきは「加工工程の『恒・高精度化』」だと考えています。どこで成形しても高い水準で同じ品質が得られること。つまり、高いレベルでの再現性ですね。金型も工作機械もそれを追求していくことが重要だと思います。
私は1984年に東芝の生産技術研究所に入社して以来、超精密加工一筋で歩んできました。研究所時代は、金属ミラー加工機を使い、光学部品や非球面レンズ用金型を作っていました。
2006年に東芝機械(現芝浦機械)に転籍してからは一転して、超精密加工機の開発に携わるようになりました。結果的に金型と機械メーカーという、市場側と生産者の2つの視点を持てたことは本当に良かったと思います。両者のニーズを理解することで見えてくることは多いからです。
その市場と生産者のニーズという視点で、超精密の金型を考えたいと思います。まず、金型が使われる市場では、製品の高性能化が加速しています。レンズが最たる例です。85年に光ディスクが登場して以来、デジカメ、ブルーレイ、スマホのカメラとレンズは高性能化していきました。
その間の非球面レンズの精度の進化は目を見張るものがあります。最近は形状精度0.05μm、面粗さRaで0.5nmレベルですが、私が入社した頃と比べると、形状精度で6倍、面粗さで10倍です。当然、高精度な金型が求められます。
一方、金型を使う生産者(成形メーカー)のニーズはどうでしょうか。高性能な製品が増え、成形が難しくなる中でも、利益を追求しなければなりません。そこで求められるのは高歩留まり化。どこで打っても同品質のものができる再現性の高い金型が必要になります。つまり、市場、生産者が超精密金型で求めているのが『恒・高精度化』というわけです。
人手不足が加速する今後は、恒・高精度化に加え、自動化・効率化が重要になってくるでしょう。芝浦機械でもこれらに対する開発を進めています。その一つが工具の形状計測に基づいた「工具経路ベクトル補正機能」です。工具形状を計測し摩耗を数値化しても補正のために、モデル修正やパスの再計算が必要でした。開発中の機能では、加工面の角度に応じた補正データを自動で作成するので、CAMに戻る必要はありません。
こうした技術に限らず、自動化が進むほど、重要になるのは「人」です。今や誰でもデータを取ることはできますが、その信ぴょう性の判断は人がしないといけない。今後は、それを見極められる高いレベルで加工を理解したエンジニアがより必要になってきます。人の定着率が高い日本企業だからこそ、そうしたエンジニアを育てることができるはずだし、しなければならない時だと思います。
金型新聞 2021年2月10日
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