金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

28

新聞購読のお申込み

芝浦機械 工作機械カンパニー
工作機械技術部第一開発課 シニアエキスパート 天野 啓氏
〜鳥瞰蟻瞰〜

目指すは「恒・高精度化」

それを見極められる人の育成が、より重要に

 超精密金型の世界で目指すべきは「加工工程の『恒・高精度化』」だと考えています。どこで成形しても高い水準で同じ品質が得られること。つまり、高いレベルでの再現性ですね。金型も工作機械もそれを追求していくことが重要だと思います。

 私は1984年に東芝の生産技術研究所に入社して以来、超精密加工一筋で歩んできました。研究所時代は、金属ミラー加工機を使い、光学部品や非球面レンズ用金型を作っていました。

 2006年に東芝機械(現芝浦機械)に転籍してからは一転して、超精密加工機の開発に携わるようになりました。結果的に金型と機械メーカーという、市場側と生産者の2つの視点を持てたことは本当に良かったと思います。両者のニーズを理解することで見えてくることは多いからです。

 その市場と生産者のニーズという視点で、超精密の金型を考えたいと思います。まず、金型が使われる市場では、製品の高性能化が加速しています。レンズが最たる例です。85年に光ディスクが登場して以来、デジカメ、ブルーレイ、スマホのカメラとレンズは高性能化していきました。

 その間の非球面レンズの精度の進化は目を見張るものがあります。最近は形状精度0.05μm、面粗さRaで0.5nmレベルですが、私が入社した頃と比べると、形状精度で6倍、面粗さで10倍です。当然、高精度な金型が求められます。

 一方、金型を使う生産者(成形メーカー)のニーズはどうでしょうか。高性能な製品が増え、成形が難しくなる中でも、利益を追求しなければなりません。そこで求められるのは高歩留まり化。どこで打っても同品質のものができる再現性の高い金型が必要になります。つまり、市場、生産者が超精密金型で求めているのが『恒・高精度化』というわけです。

 人手不足が加速する今後は、恒・高精度化に加え、自動化・効率化が重要になってくるでしょう。芝浦機械でもこれらに対する開発を進めています。その一つが工具の形状計測に基づいた「工具経路ベクトル補正機能」です。工具形状を計測し摩耗を数値化しても補正のために、モデル修正やパスの再計算が必要でした。開発中の機能では、加工面の角度に応じた補正データを自動で作成するので、CAMに戻る必要はありません。

 こうした技術に限らず、自動化が進むほど、重要になるのは「人」です。今や誰でもデータを取ることはできますが、その信ぴょう性の判断は人がしないといけない。今後は、それを見極められる高いレベルで加工を理解したエンジニアがより必要になってきます。人の定着率が高い日本企業だからこそ、そうしたエンジニアを育てることができるはずだし、しなければならない時だと思います。

金型新聞 2021年2月10日

関連記事

金型磨きロボット開発<br>近畿大学・理工学部 原田 孝教授

金型磨きロボット開発
近畿大学・理工学部 原田 孝教授

パラレルで力制御、高速・高精度  金型を自動で磨くロボットはかねてから望まれ、機械メーカーや研究機関が開発に挑んできた。近畿大学理工学部の原田孝教授もそのひとり。昨年、パラレルリンクやDDモータにより微妙な力加減を緻密に…

木村有貴さん 金属3D造形の困りごとを解決する【ひと】

金属3Dプリンタで造形した金型部品のトラブルを分析・解決する「診断士」のような業務を担当する。珍しいトラブルほどテンションが上がるそうで、「難しい問題を解明できた時の達成感が何よりも気持ちがいい」。 大学では金属材料を研…

金型の異常をAIで検知するカメラシステム【金型応援隊】

AI・ロボット開発のベンチャー企業a‐roboは2023年2月、プラスチック成形中の異常を検知し、成形機を制御するカメラシステム「GROW‐V」を発売した。 カメラの画像情報をもとにAIが金型の異常を検知する。既存のシス…

【ひと】BESTOWS 代表取締役・西田 勇さん 現場を知るソフトウェア研究者

大学発ベンチャーとしてBESTOWSを設立した、神戸大学工学部助教。製造AIの研究開発や産業機械・専用機などの設計・製作を手がけるアルムのCTOも務めており、AIが加工プログラムを自動で作成する「アルムコード1」の開発に…

新春金型メーカー座談会
〜女性の活躍を考える〜

 製造業において、人手不足は深刻な問題となっている。困難な採用環境、熟練者の高齢化などに加え、働き方改革関連法の完全施行もあり、金型メーカー各社も対応に苦慮している。特に人手不足への対応は、生産性の向上はもとより、女性の…

トピックス

関連サイト