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【金型テクノラボ】トーヨーエイテック アルミ用のプレス金型の凝着抑制するDLC被膜

自動車を軽量化するために近年、ボディに鋼板ではなくアルミニウムを採用するなど素材の置換えが進んでいる。しかしアルミニウムは軟質で融点が低く、塑性加工中に凝着しやすい。それを解決するカギの一つがコーティングだ。近年適用が増えているアルミニウム用のプレス金型に適したDLCコーティングについて解説する。

軟質で融点が低く、金型に凝着しやすいアルミ

プレス金型のコーティングを選択する上で、プレス素材と成形方法によってコーティングに求められる機能が変わる。アルミニウムは、軟質で延性が高く融点が低い材料であることから、プレス加工中に金型へ容易に凝着する。さらに凝着摩耗に繋がると金型の損傷が進み、成形品の仕上がりも阻害する。また、金型凝着物の除去といったメンテナンスを必要とし、生産性の低下を招くなど問題がある。従ってアルミニウムのプレス加工ではアルミニウムの凝着を抑制する機能がコーティングに求められる。

低摩擦・耐摩耗性に優れるDLCコーティング

DLC(Diamond-Like Carbon)は、ダイヤモンド成分とグラファイト成分を含む硬質炭素被膜であり、低摩擦で耐摩耗性に優れ、自動車や機械の部品に適用されている。また、軟質金属の耐凝着機能に優れるコーティングとして、アルミ合金用の切削工具などへ応用されている。

DLCは金属と物性が大きく異なる炭素が主成分であり、金属の凝着が起こりにくい特性を示し、アモルファス構造による平滑性と併せて優れた耐凝着性を示す。また、DLCは原材料や製法によって、メタンなどの炭化水素ガスを原料とするa-C:H、固体グラファイトを原料とするa-Cやta-Cなどの分類に細分化される。

機能に関してもDLCは硬いコーティングと言う認識が広がっているが、前述の分類によって50GPa(ギガパスカル)を超える非常に硬い物から10GPa前後の比較的軟らかい物まであり、DLCを使用する上で詳細を確認することが重要となる。

硬度約50GPaのta-Cを開発

本稿ではアルミニウムのプレス成形用途に開発したta-Cに分類されるDLCを紹介する。ta-Cはダイヤモンドの主骨格となる四面体形分子構造を多く含み、水素含有量が少なく、DLCの中でも高硬度に分類される。当社ではイオン化率の高いカソーディックアーク法を採用した自社製炉を開発し硬度約50GPaのta-Cを実現した。

大幅に凝着を抑制できるta-C(TOYO Arc-DLC)

  往復摺動試験によって凝着した相手材(アルミニウムA6061)の体積を測定した結果を図1に示す。試験は面圧50MPa(メガパスカル)、速度0.03m/秒、230℃、無潤滑で実施した。ta-CはSKD11材に対し97%凝着体積を低減する結果であった。

 さらにa-C:H(比較的多くの水素を含むDLC、硬度28GPa)との比較を含め、引抜き試験による摩擦係数を図2に示す。試験片でアルミニウムA3004板を挟み込み、荷重を180kN(キロニュートン)、接触面積は9.3㎠とし、室温、無潤滑で板材を8mm/秒の速度で100mmの距離を引抜いた時の平均摩擦係数を測定した。いずれのDLCもSKD11に対して、低い摩擦係数を示したが、a-C:Hは14%の低減に留まったのに対し、ta-Cは70%低減した。

前者試験は曲げR部などの比較的面圧の高い部位の凝着を想定し後者はプレス素材の滑りを想定したが、いずれの試験もDLCの適用効果が認められ、とりわけta-Cは高硬度としたことによって、DLCの持つ機能をさらに高める結果となった。

以上のようにアルミニウムプレス金型に最適となるDLCコーティングを用いることによって、凝着を抑制し、金型の耐久性や成形品の仕上がり向上、加工油の廃止または低減、金型メンテナンスの低減などの効果が期待されている。今後の自動車の軽量化に欠かせない要素技術として注目されている。

執筆者

トーヨーエイテック
表面処理事業部門 表面処理開発設計課
岡本  圭司氏(Okamoto  Keishi)
広島県広島市南区宇品東5‐3‐38
TEL:082-252-5227

記者の目

自動車を軽量化するためボディなどへの採用が増すアルミ。柔らかく、凝着しやすく、プレス成形が難しいといわれる。しかし近年、被膜やCAEなどそれらに対する技術の開発が進む。金型の産業構造をも変えかねない電気自動車でもアルミが多く使われている。アルミを取り巻く動きに注目だ。(中)

金型新聞 2021年2月10日

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