金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

21

新聞購読のお申込み

小林工業 工具のヘリカル形状をニアネット成形[金型テクノラボ]

粉末冶金金型を手掛ける小林工業は、ヘリカル形状を回転機構を持たない成形機で粉末成形する技術を開発した。粉末を均一にするプレス技術と、回転しながら製品を取り出す独自の金型によって実現した。ニアネット成形することで超硬エンドミルなどの形状加工の効率化に役立てられるという。その技術の特長や開発における取り組みについて解説する。

従来と新技術・新工法

上下のパンチでプレス、回転して製品取り出す

ヘリカル形状のダイに粉末を充填する。上下のパンチが粉末に圧力をかけて押し固める。粉末が固まると下パンチが回転しながら抜き出しする。成形されたのはヘリカル形状が転写された製品。これは当社が開発したヘリカル形状を従来プレスで成形できる金型だ。

ダイに充填した粉末は、高圧でプレスするため互いに結合し、約40%に圧縮される。例えばダイの深さ200㎜分の粉末をプレスすると長さ80㎜、深さ100㎜分の粉末をプレスすると長さ40㎜の製品が成形される。

エンドミルの溝の加工の工数と材料を削減

成形機

超硬ソリッドエンドミルの殆どは、超硬の丸棒を成形し、焼結した後、研削で粗加工、刃付けし完成する。加工工数が多いため、段取り替えや加工に時間がかかる。また除去加工するため廃棄する材料が無駄になり、環境にも優しいとはいえない。

しかしこの新たな金型による工法を用いれば、それらの課題を解決できる。エンドミルのヘリカル形状をニアネットシェイプ化することで、丸棒の成形や研削による溝の加工にかかる工数を約30%、廃棄する材料を約20%削減できる。

従来、ヘリカル形状を粉末成形するには専用の成形機が必要となる。しかしこの工法に用いる金型は製品を取り出す回転機構を内蔵しているため専用機は必要ない。

培った技術生かし、粉末の密度を均一に

新工法の着想から開発(2022年3月には特許取得)までに約3年を要した。最も難しかったのが成形した製品の粉末の密度を均一にすることだった。

研究課題としていたのが、刃先交換式エンドミルのヘッド。ボス、ストレート、ヘリカルの複数の形状があるため単純にプレスしても密度が均一にならない。特に力の負荷が変化するストレートとヘリカルの境目にクラックが起こりやすい。

過去に例のない工法のため、参考にできるデータがない。しかし当社には長年の間に培った粉末成形金型と、自社で手掛ける電動サーボ成形機の技術がある。まさに手探りだったが、トライ&エラーを重ね、粉末の密度の均一化を実現した。

金型を分割して磨き

もう一つの大きな課題が磨きだった。粉末成形の金型は素材が超硬。ダイの形状は放電で加工する。そのため表面に微細な凹凸ができる。これが製品を取り出す際に、製品の表面を傷つけてしまう。

しかしその表面を磨こうとしてもダイは奥まったヘリカル形状のため手が届かない。そこで金型を分割した。この金型の分割は、当社が得意とするインサートチップの金型で確立した技術。粉末の直径は約20μm。そんな微細な粉末を成形してもバリを出さない技術を生かし、実現した。

エンドミル以外の分野にも

現在、対応可能なリード角は最大45度で、リード角の異なるエンドミルを成形するにはそれぞれの金型が必要など課題はある。しかしこの技術を用いれば、特に直径が太くシャンクの長い切削工具などで生産効率を大幅に高めることができる。ヘリカル形状であれば切削工具以外でも応用できる。今後は新たな分野にも展開していきたい。

小林工業

  • 営業部 営業推進担当課長
  • 宇津野  雅之氏
  • 秋田県由利本荘市石脇字赤ハゲ1-372
  • TEL:0184-24-6106

記者の目

超硬材料からエンドミルなどの切削工具を製作する場合、研削時間が長く、砥石の摩耗が激しい。ニアネット成形することで、工数削減に加え、カーボンニュートラルの観点からも効果を見込むことできる。今後、工具を製作する新しい手法として普及していくか注目だ(清)。

金型新聞 2022年7月1日

関連記事

牧野フライス製作所 大型加工機のレトロフィットを強化

大型機中心に年20台 牧野フライス製作所は、大型加工機を中心にレトロフィットやオーバーホール事業を強化する。年間で最大20台程度対応できる体制を整え、今年度内には同事業の売上高を3~5億円を目指す。 子会社の牧野技術サー…

リヒト精工 ヘッドランプ金型向け窒化処理技術を開発

高い鏡面性を実現 熱処理から表面処理まで独自技術を持つリヒト精光(京都市南区、075-692-1122)はインターモールド2022大阪でエジソンハード処理(新ガス窒化処理法)の新技術を披露した。成形時のキズや摩耗の激しい…

コディプロ社製の回転型アイボルト
極東技研工業

アプリで製品情報取得 取説無しで管理可能  金型や建築の資材など様々な現場の吊り具として使われるコディプロ社(ルクセンブルク)の回転型アイボルト。より安心・安全な現場作りに貢献する新しいアプリケーションとして追求システム…

DIAコートエンドミルが好評
チャンピオンコーポレーション

グラファイトやCFRP向け  金型部品や金属機構部品メーカーのチャンピオンコーポレーション(大阪府東大阪市、072-964-2511)が手掛ける切削工具が好評だ。中でも、コストパフォーマンスに優れ、グラファイトやCFRP…

カメラ内蔵金型による±5μm位置決めプレス サンコー技研【金型テクノラボ】

電子回路を組み込んだフィルム基板やICカードなどの精密打ち抜きで、大きな課題となるのが板材の位置決め。しかしプレス加工を手掛けるサンコー技研は、金型に内蔵したカメラとロボットにより±5μmの精度で位置決めしてプレス加工す…

トピックス

AD

FARO 樹脂成型品や自動車シートの測定での3次元測定アームの活用と新製品Qua...

樹脂成型品の工程管理・不具合解析 樹脂成型品の工程管理や不具合解析の現場では、実際の製品や試作品と設計図との差異把握や、製品や金型の工程ごとの変化量把握、不具合解析や要因分... 続きを読む

関連サイト