金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

MAY

08

新聞購読のお申込み

芝浦機械 工作機械カンパニー
工作機械技術部第一開発課 シニアエキスパート 天野 啓氏
〜鳥瞰蟻瞰〜

目指すは「恒・高精度化」

それを見極められる人の育成が、より重要に

 超精密金型の世界で目指すべきは「加工工程の『恒・高精度化』」だと考えています。どこで成形しても高い水準で同じ品質が得られること。つまり、高いレベルでの再現性ですね。金型も工作機械もそれを追求していくことが重要だと思います。

 私は1984年に東芝の生産技術研究所に入社して以来、超精密加工一筋で歩んできました。研究所時代は、金属ミラー加工機を使い、光学部品や非球面レンズ用金型を作っていました。

 2006年に東芝機械(現芝浦機械)に転籍してからは一転して、超精密加工機の開発に携わるようになりました。結果的に金型と機械メーカーという、市場側と生産者の2つの視点を持てたことは本当に良かったと思います。両者のニーズを理解することで見えてくることは多いからです。

 その市場と生産者のニーズという視点で、超精密の金型を考えたいと思います。まず、金型が使われる市場では、製品の高性能化が加速しています。レンズが最たる例です。85年に光ディスクが登場して以来、デジカメ、ブルーレイ、スマホのカメラとレンズは高性能化していきました。

 その間の非球面レンズの精度の進化は目を見張るものがあります。最近は形状精度0.05μm、面粗さRaで0.5nmレベルですが、私が入社した頃と比べると、形状精度で6倍、面粗さで10倍です。当然、高精度な金型が求められます。

 一方、金型を使う生産者(成形メーカー)のニーズはどうでしょうか。高性能な製品が増え、成形が難しくなる中でも、利益を追求しなければなりません。そこで求められるのは高歩留まり化。どこで打っても同品質のものができる再現性の高い金型が必要になります。つまり、市場、生産者が超精密金型で求めているのが『恒・高精度化』というわけです。

 人手不足が加速する今後は、恒・高精度化に加え、自動化・効率化が重要になってくるでしょう。芝浦機械でもこれらに対する開発を進めています。その一つが工具の形状計測に基づいた「工具経路ベクトル補正機能」です。工具形状を計測し摩耗を数値化しても補正のために、モデル修正やパスの再計算が必要でした。開発中の機能では、加工面の角度に応じた補正データを自動で作成するので、CAMに戻る必要はありません。

 こうした技術に限らず、自動化が進むほど、重要になるのは「人」です。今や誰でもデータを取ることはできますが、その信ぴょう性の判断は人がしないといけない。今後は、それを見極められる高いレベルで加工を理解したエンジニアがより必要になってきます。人の定着率が高い日本企業だからこそ、そうしたエンジニアを育てることができるはずだし、しなければならない時だと思います。

金型新聞 2021年2月10日

関連記事

【インタビュー】ミスミグループ本社 常務執行役員 ID企業体社長・吉田 光伸氏「ものづくりのDXを加速」

ミスミグループ本社(東京都文京区、03- 5805-7050)はこのほど、オンライン機械部品調達サービス「meviy(メビィー)」の新機能をトヨタ自動車と共同で開発した。3DCAD上で設定した部品の穴情報を「meviy」…

ハマダ工商 AMで新たなものづくり【金型の底力】

樹脂やプレス金型の製作から少量の成形まで手掛けるハマダ工商は今年2月、事業再構築補助金を活用し、金属3Dプリンタを導入した。水管を自由に設計した冷却効果の高い金型で、反りを抑えた防犯レンズカバーの成形品を提供するのが狙い…

堀江亜衣奈さん 醍醐味は職人技の瞬間【ひと】 

「六角パンチやピンの研削加工では多少寸法のズレが発生するため、補正するのが常ですが、狙い通りに寸法がハマッた瞬間はヨシッとガッツポーズします」と笑顔を見せるのは堀江亜衣奈さん(22)。精密鍛造金型や部品を手掛ける阪村エン…

ものレボ 生産工程など見える化[金型応援隊]

中小製造業ではフレキシブルな対応や生産性向上を図るためのデジタル化が喫緊の課題だ。 2016年創業した『ものレボ』は現場の工程管理、在庫管理、受発注管理、分析などの見える化を図るDXアプリ『ものレボ』を開発し、従来ホワイ…

山内由華さん 金型技術展2022を企画、開催した【ひと】

大阪産業創造館で8月に開催した「金型技術展2022」を企画、運営した。大阪産業創造館が金型をテーマとする展示会を開くのは初めて。金型メーカーや関連企業44社が出展し、コロナ禍ながら会期1日で688人が訪れた。 金型をテー…

関連サイト