金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

JULY

20

新聞購読のお申込み

【鳥瞰蟻瞰】由紀ホールディングス 代表取締役社長・大坪正人 氏「中小製造業をグループ化、優れた技術守り次代につなげる」

中小製造業のグループ化
事業に集中できる環境を整備
優れた技術守り次代につなぐ

2006年に金型ベンチャー企業から父が経営するねじメーカーの由紀精密に入社しました。そこで感じたのは企業規模が小さすぎて、あらゆる機能が無さすぎるということ。間接人員が雇用できず、事業戦略や人事、技術開発、広報などといった機能が持てない。これが今後の事業継続、成長の課題でした。

そのとき出会ったのが、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)グループ(仏)会長兼CEOのベルナール・アルノー氏の自伝でした。多くの高級ブランドを抱えるLVMHグループは、各ブランドが独立し、それぞれの個性を伸ばしながら、グループ全体の競争力を高めています。

こうした形は日本の中小製造業にも向いているのではないか。そう考えて、17年に由紀ホールディングス(HD)を設立しました。翌年、中小製造業のホールディングス会社の株式を取得し、そこから中小製造業をグループ化する事業モデルの確立を進めてきました。現在の傘下企業は、由紀精密も含めて13社になります。

グループ化で取り組んだのは、人事や広報、財務などの機能を由紀HDに集約し、グループ各社が事業に専念できるインフラを整備することでした。由紀HDには各分野のスペシャリストがおり、各社に対して現場改善の取り組みや新規開拓の営業支援などのサポートを行っています。

こうしたインフラの整備によって、グループ各社は効率良く事業を運営できます。また、事業に集中できるようになることで、これまで以上に技術や業績を伸ばすことができ、結果として優れた技術を守ることにもつながります。

日本の金型技術は、間違いなく世界トップレベルです。これまでに欧米やアジアなど世界のものづくりをみてきましたが、「これは日本には真似できないな」と思ったものは、実はほとんどありませんでした。それほど日本の技術レベルは高い。

一方で、金型ユーザーの海外生産拠点では金型の現地調達が進んでおり、今後さらなる加速も予測されます。とはいえ、全ての海外企業が日本ほどの技術を持っているかというとそうではない。ではどうなるか。高度な技術が無くても済むような製造方法や製品設計に変えてしまうのです。

そうなると、これまであった技術はいつか失われてしまいます。日本刀が良い例です。昔は優れた刀鍛冶がたくさんいたので、多くの名刀を生み出すことができましたが、今はそうした技術が残っていないため、かつてのような代物を作ることが難しくなっています。

こういう事例は現在の製造業でもたくさんあると思います。せっかく良い技術があるのに、それが無くなってしまうのは寂しいですし、もったいない。私はこうした事態をなんとかして防ぎたいのです。中小製造業のグループ化は、そのための一つの形です。今後は、これまでの取り組みで確立した「YUKI Method(ユキメソッド)」をさらに広げていきたいと考えています。

金型新聞 2021年3月10日

関連記事

キャステム 微細ワークを肉盛溶接【金型応援隊】

コネクタメーカーを始め、全国の金型ユーザーから補修の依頼が舞い込む。50μmという微細な肉盛り溶接ができるからだ。あまりに微細なため、溶加棒も自社製というこだわりを持つ。 また微細溶接だけではなく、ダイカスト金型等のボリ…

高精度、省人化ニーズが高まる国内市場で注力すること 田代勝氏(三菱電機 産業メカトロニクス事業部長)【この人に聞く】

三菱電機は50年以上に渡って、高精度、高性能な放電加工機を開発し、付加価値の高い金型づくりに貢献してきた。近年では省人化ニーズへの対応に注力する他、金属3Dプリンタを開発するなど技術領域を広げている。同社は今後、金型業界…

【鳥瞰蟻瞰】エスアイ精工社長・指尾 成俊氏 QCD+「E(Emotion=感情)」

選ばれる企業になるために経営者の美意識によって顧客の感性に訴求する 当社は1986年に創業したカーボン素材などの高精度加工を得意とする従業員13人の会社です。主に半導体の製造工程で使用されるカーボン製治具などを手掛けてお…

田口型範社長・田口 脩一郎さん 70年以上続く鋳造用金型メーカーを継いだ

埼玉県川口市で70年以上続く老舗鋳造用金型メーカーに生まれた。幼い頃から創業者の祖父に「3代目はお前だ」と言われて育ってきた。 高校に上がる頃には自然と会社を継ぐことを意識した。大学は理工学部に入り、機械工学を学んだ。後…

【鳥瞰蟻瞰】福井精機工業社長・清水一蔵氏「これからの金型の価値は、生産技術支えるプロデュース力」

金型の価値が変わる これからの価値とは、生産技術支えるプロデュース力  高度な技能や経験、専門知識がなくても金型が作れる環境になってきました。なぜなら、これまで職人技と言われた金型加工は工作機械や切削工具などの発達によっ…

トピックス

関連サイト