金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

OCTOBER

17

新聞購読のお申込み

現代の名工・三井ハイテック 木下 易之氏に聞く「次世代の匠に必要なもの」

デジタル技術や自動化技術の進化によって金型づくりはここ数年、大きく変化している。これから金型技術者にはどのような技能や能力が求められるのだろうか。それとは逆に、時代を越えても変わらず求められることは何だろうか。高度な研削加工の技能を持ち現代の名工(2018年)にも選ばれた、三井ハイテックの金型製造部で特任技師を務める木下易之氏に聞いた。

きのした・やすゆき
1959年生まれ、大分県出身。78年津久見高校機械科卒、三井工作所(現三井ハイテック)入社。2012年金型事業本部金型事業部金型製造部長、16年同事業部金型技術推進部長、19年同事業部金型生産技術部特任技師。18年「現代の名工」に選ばれる。

技能を技術に昇華する装置開発

ノウハウを数値化、装置に技能者と違わぬ能力

次世代の技術者に必要な力

金型技術者にこれから必要とされる力。それは人の技能をデジタル化(数値化)しそれを活かして金型づくりを効率化する機械を開発する力。そしてその機械に技能者と同様の能力を発揮させる力。この2つの力が必要と感じています。

例えば、高度な研削加工の技能を持つ技能者の手や目の動きや力加減を数値に置き換え、同じ動きをする機械をつくる。加工時の振動や音、温度を測り、それをもとに機械の動きを制御し技能者の能力に近づける。いわばノウハウを機械化する力です。

金型はこれまでにも増して、短い時間で、無駄を減らし、最小限の人員で、高い品質に造ることが求められています。そうした中、いかに人が持つ技能を技術に昇華させ生産効率や品質を高めるか。これが次世代の金型技術者が向き合う課題だと思います。

時代を越えて変わらぬ必要な力

新たな機械や工法を開発し、それによる生産技術を確立することで金型の品質や生産効率を改善する力。これは時代を越えて変わらぬ、金型の技術者に必要な力だと思っています。

先ほど、デジタル化により技能を技術に置き換えることを現代の技術者に必要なことと言いましたが、「新しい機械を生み出し効率や品質を高める」ということは変わらない。それを苦と考えず、楽しみ、好奇心旺盛に探究できることです。

私は金型技術者として40数年、常にそうした「改善につながる新しい方法」を探してきたように思います。「当たり前」や「常識」の殻を破り、品質がもっと安定し、楽(効率化)になる方法はないだろうか、と。

最も印象に残っているのが、モーターコア金型のスロットダイの刃物部を加工する治具を開発したこと。スロットダイの刃物部はモーターコアの大きさなどによって形状が実に様々。そのためモーターコアの種類に応じてそれぞれの治具(百種類以上)が必要でした。

それを4種類の治具で全ての加工に対応できるようにしました。治具の製作、保管、セッティングの作業などが全て要らなくなり、時間とコストを大幅に改善しました。それまでは百種類以上の治具を用意するのが常識でしたから、社内で反響も大きくとても喜ばれました。

必要な力を身につけるには

新しい機械や工法を生み出す基となるのは、手や目、耳など五感による「技能」です。デジタル技術の活用も、優れた技能が無くては成し得ません。金型づくりの基礎といえる五感による技能を磨き、そしていつも柔軟な発想で課題解決を探究することだと思います。

金型新聞 2022年2月10日

関連記事

【特集】日本の金型業界に必要な4つの課題 -事業承継-

PART3 狭山金型製作所 社長・大場治氏に聞く「事業承継」 60歳で「引退宣言」経営以外にやりたいことを「朝活」で考え方を伝える 55歳の時に60歳で社長を退くと社内外に「引退宣言」をしました。今59歳なので、あと1年…

ソディック 情報伝達の自動化、ハードつなげる提案も【特集:金型づくりを自動化する】

自動化の仕組みづくりを支援 ソディックはハードだけでなく、工程間のさまざまなデータをつなぐ自動化の仕組みづくりを提案している。その肝となるのが、加工や計測プロググラムなどの「情報伝達を自動化する」(プロダクションイノベー…

金型メーカー座談会
経営者5人が語る、どうなる2015年

活路を創造、混沌に挑む  日本の金型業界にも少しずつ明るさが戻ってきた。とはいえ、受注水準はいまだリーマンショック前の8割程度だ。そんななか、日本金型工業会は「新金型産業ビジョン」を策定した。そこでは、金型業界の向かうべ…

センシング機能のダイセットで不良品発生を防ぐ ニチダイ【特集:利益を生むDX】

DXの本質は利益を生み出すことにある。以降では、DXによって「売上げを上げて利益を生み出す」方法と「コストを下げて利益を生み出す」企業のそれぞれの取り組みを取材した。 金型の長寿命化、自動化へ  冷間鍛造金型を手掛けるニ…

新規参入目立つ微細精密加工向け機械・工具 成長分野で需要拡大【特集:2022年金型加工技術5大ニュース】

金型づくりの世界では、自動化やAM、脱炭素向けなどの最新技術が数多く登場し続けている。その進化は止まることがなく、4年ぶりに開催されたJIMTOF2022でも多数の最新技術が披露され、注目を集めた。今年最後となる本特集で…

トピックス

AD

FARO スキャンしたらすぐに結果まで:工数低減を実現

金型のメンテナンス、修復、複製に3次元測定アームを活用 製品を製造するために欠かせない金型ですが、そのメンテナンスには多くの課題が存在します。金型は使用するうちに摩耗し、時... 続きを読む

関連サイト