金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

MAY

05

新聞購読のお申込み

水素エンジン車に生かされる型づくり技術とは?【変わるトヨタの型づくり】

PART3:新たなクルマづくり

若手の挑戦と育成両立

CFRPのフードインナー
若手と匠が協力、人材育成にも
CFRPを使ったレース車

新たなモビリティの一つである、水素エンジン車でも新たなモノづくり技術が生かされている。昨年7月に大分県のオートポリスで行われたスーパー耐久シリーズ。ここに出走したカローラベースの水素エンジン車には、外板パネルに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使われており、それには、モビリティ—ツーリング部の新たな技術が採用されている。

水素エンジン車には水素タンクが必要だが「100㎏程度重くなる」(モビリティーツーリング部新価値創造課の嶋方克好課長)ため、レースで走るには、車体を軽くしなければならない。軽量化の方策として、フードのインナー、アウター、フロントドアインナー、アウターなど外板部品の一部をCFRP化した。

「レース車という一品モノ」(嶋方氏)のため、オートクレープ方式で成形。一般的な型とケミカルウッド型など部品ごとに3種類の型を製作した。嶋方氏は「カーボンではヘミング曲げができないため端末の処理や、ルーフは全周アンダーカットの閉じ断面になるため、成形方法をどうするかなどの課題に直面した。また、成形時の温度による製品寸法の精度変化も苦労した」と振り返る。こうした課題を解決し、水素タンク分の3割程度軽くすることに貢献した。

今回のCFRPはレース用の水素エンジン車への適用だが、すでにプリウスPHVやGRブランド車などの一部の部位で採用されている。量産となると「まだまだサイクルタイムと材料コストが課題」(嶋方氏)というが、マルチマテリアル化の一つとして、CFRPは広がる可能性を秘めている。

また、今回の取り組みが特徴的だったのは「若手の挑戦と育成を両立させた」ことだ。プロジェクトにはあえて、入社3年目までの若手をリーダーとして抜擢。とはいえ、いきなり若手だけでは難しいため、若手と匠をうまく協業してもらうようにした。

まず、選抜したリーダーたちはプロジェクト全体の日程を設定。「自らの部署だけでは全体を俯瞰(ふかん)した日程を組むことは難しい。成形、塗装、組立に強い部署や匠にヒアリングしながら設定してもらった」(嶋方氏)。その後も、自らに足りない知見は匠に聞くなどして、パネルは成形、塗装、組立、サブアセンブリーまで7週間で完成させたという。

他部署と交流仕事の幅広げる

嶋方氏は若手に挑戦させた狙いについて「視野を広げるため」と話す。「若手は自分の仕事で精一杯。これはこれで重要だが、他部署の人と交流すれば仕事の幅が広がり、視野も広がる」。

同社では、こうした交流も育成の重要な手段と考えており、他のプロジェクトでも頻繁に行われているという。「我々の部署は、金型づくりは得意。しかし、成形以降の組付けなどの課題は理解しづらかった。今回、他部署の考えを学ぶことで、車づくりへの理解をより深めることにもつながった」(嶋方氏)。

金型新聞 2022年6月9日

関連記事

〜特集〜 金型づくりをスマート化する

生産現場を訪ねて三豊機工 鹿児島工場(南九州)  5台のAIV(Autonomous  Intelligent  Vehicle)が10棟の工場を跨いで縦横無尽に運行する金型工場。冷間圧造用金型を材料から製品まで一貫生産…

中辻金型工業 切削工具を自社開発

培った技術活かす 自動車の電動化、医療関連や半導体関連需要の拡大などで、国内のものづくり産業に求められるものも大きく変化している。自動車の電動化ではモータやバッテリーなどの電動化部品や材料置換による軽量化部品などが増えて…

試作回数を半分に削減 大阪銘板【特集:シミュレーションの使い方再発見!!】

自社商品の生産性アップ 大阪銘板は自動車などのプラスチック内外装製品などを中心に金型から成形、二次加工までを手掛ける。グループ全体で4つの生産拠点を持ち、型締め力100~2000tクラスのプラスチック製品を生産している。…

加工現場でも対応進むカーボンニュートラル CO2排出量の見える化【特集:2022年金型加工技術5大ニュース】

金型づくりの世界では、自動化やAM、脱炭素向けなどの最新技術が数多く登場し続けている。その進化は止まることがなく、4年ぶりに開催されたJIMTOF2022でも多数の最新技術が披露され、注目を集めた。今年最後となる本特集で…

日本製鉄 江尻室長に聞く 自動車用鋼板のトレンドや加工技術【特集:プレス加工最前線】

自動車業界の脱炭素化や、安全性向上に欠かせない高強度鋼板による軽量化。近年では980Mpa超のウルトラハイテン(超高張力鋼板)や、2・0GPa級のホットスタンプ材など高強度化が加速している。こうした鋼板の進化で、金型づく…

関連サイト