新天地を求めて、世界に進出していった日本の金型メーカーは、何を考え、どんな苦労や課題を乗り越えて、取り組みを進めてきたのか。また、さらなる成長に向け、どんな青写真を描いているのか。中国、タイ、メキシコ、アメリカ、欧州そ…
「金属AMはプロセスの一つ、目的は顧客の課題解決」日本精機常務・松原雅人氏【鳥瞰蟻瞰】
金型メーカーから技術を発信

粉末やレーザーなど、多くの要素を最適に制御しなければいけないため、金属3Dプリンタによる金型づくりは簡単ではありません。また、何でも作れる魔法の杖でもありません。それでも参入したのは、切削加工などと同じく、金型の加工プロセスの一つになりつつあること、顧客の本質的な課題を解決する最適な手段だと判断したからです。
ダイカスト金型を手掛ける当社では、昨夏にGEアディティブ社の金属3Dプリンタを導入しました。現在、大同特殊鋼のSKD61相当の粉末材「HTCシリーズ」を使い、230㎜角程度であれば造形できます。また、金型を商品として提供するには保証が不可欠なので、設計、解析、造形、熱処理、加工、品質保証まで内製できる一貫体制を構築しています。
そもそも導入のきっかけとなったのが、辻村正稔社長の「うちの武器は何だ」という問いでした。「大型加工機がある」、「生産能力が高い」、「設計力がある」—。色々と強みを考えましたが、それらは結局、従来のQCDでの競争力を高めるという軸でしかないわけです。しかも、設備に依る部分が大きければ、海外でも作れてしまう。
では、当社にしかできないオリジナルの武器を持つには何をすべきかー。しかし、そんなこと簡単に思いつかないですし、すぐ金属3Dプリンタに答えを求めたわけではありません。
私は26年前に業界に入り、ダイカスト金型の変化を見つめてきました。ライン冷却やジェットクール、入れ子分割や表面処理など技術は進化してきましたが、顧客の本質的な課題は「早く良品を作ること」です。これはずっと変わりません。ただ残念なのは、我々はこれまで顧客発信の技術に対応するだけだったことです。
ならば、金型メーカー発信で、この課題を解決できる独自の手段を開発できれば武器になりえます。そのためにまず、設計領域の重要性が増している今、顧客の設計者との関係強化が欠かせません。その最適な手段が金属3Dプリンタだったわけです。
知見が少ない金属3Dプリンタで、冷却効果の高い金型の事例を多く作り、採用が増えれば、金型の構造全体を見直す必要が出てきます。そうなると、設計者に提案しやすくなるからです。しかも、長年の武器である金型技術と融合できれば「良品を早く作る」ことを提案ができます。
SKD61材が登場していたことも大きいですね。従来の金型と同じ材料で作ることができれば、提案の余地は大きくなると考え、導入を判断しました。
とはいえ、経験から痛感するのは、金属3Dプリンタは簡単な技術ではないということ。材料、機内の酸素濃度、熱処理など制御する要素は多い。ただ、いずれは金属3Dプリンタによる金型づくりも他の加工プロセスと同様に一般化していくでしょう。技術の進化は昔より早いので、5年もすれば「普通の技術」になっているかもしれません。
むしろ、そうなる可能性のほうが高い。けれど全く悲観はしていません。
我々がもっと先に行けばいいだけの話ですから。その一つとして、現在大型化への対応を進めています。機械や素材メーカーらと協業しながら、500㎜角サイズの造形に取り組んでいます。
「良品を早く作る」には、金属3Dプリンタの技術が重要になることは間違いない。だとすれば、できるだけ早くこの技術を広めていくべきだと思います。そのためにも「来るもの拒まず」で、金型づくりで金属3Dプリンタに挑戦する企業とは協業したいですね。
金型新聞 2022年6月9日
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