脱炭素社会に向けた取り組みがものづくりで加速し、金型業界でもその動きが広がりつつある。先手を打つ金型メーカーの対応には大きくは2つの方向性がある。一つは、太陽光パネルの設置や設備の省エネ化などによる自社の生産活動でCO2…
日本製鉄 江尻室長に聞く 自動車用鋼板のトレンドや加工技術【特集:プレス加工最前線】
自動車業界の脱炭素化や、安全性向上に欠かせない高強度鋼板による軽量化。近年では980Mpa超のウルトラハイテン(超高張力鋼板)や、2・0GPa級のホットスタンプ材など高強度化が加速している。こうした鋼板の進化で、金型づくりもより難易度が高くなっている。日本製鉄の自動車鋼板商品技術室の江尻満室長に、材料メーカーから見た自動車用鋼板のトレンドや加工の難しさ、今後重要になる加工技術などを聞いた。
近年の自動車用鋼板のトレンドは。
自動車業界には、カーボンニュートラルと安全性向上の2つの大きなトレンドがある。それに欠かせないのが高強度化だ。鋼板を高強度化し、薄くした980~1470Mpa級のウルトラハイテンや、ホットスタンプ材の採用が増加している。
現状で実例はまだ少ないが、冷間プレスでは1470Mpaが採用され、それ以上の強度から2・0Gpaまではホットプレス材というのが我々の認識。軽量化には両方の材料が必要だが、それぞれに利点や課題がある。
利点や課題とは。
冷間プレスは生産性が高い。しかし、プレス荷重の限界と加工の難しさがある。一方、ホットスタンプは、生産性が低いが加工性は高い。加工性と強度は負の相関にあり、それを両立させていくこととが重要だ。日本製鉄では現在、1・5Gpaを超える冷間プレス材料の開発にも取り組んでいる。また、高強度化には材料以外の提案も重要になる。
具体的には。
「NSafe-AutoConcept(NSAC)」と題した、次世代自動車向けコンセプトを打ち出している。材料開発だけでなく、構造・機能設計、工法開発、性能評価までトータルで支援する。接合面を確保するための連続のフランジ形状を可能にする工法や、ホットスタンプ材を製造する工程で効率よく冷却する技術なども開発した。必要であれば部品の構造変更なども提案する。材料特性を理解する当社だからこそできる提案だと思う。
ウルトラハイテンで必要となる金型技術は。
スプリングバックを制御する金型設計はもちろん、材料が硬くなるので、摩耗や焼付きを抑制する金型材料や加工技術が求められる。また、絞りプレスはプレス荷重が高くなるし、どうしても割れやしわが発生しやすい。歪みを分散させた構造とそれを実現する金型の開発なども重要になる。
ほかには。
金型よりも材料側の問題だが、溶接性も重要だ。高強度材は炭素の含有率が高いので、溶接が難しくなる。また、プレス後に一定時間を経て破断が発生する「遅れ破壊」も課題だ。これは水素脆性によるものだが、解消するために、残留応力を少なくすること、つまりひずみを減らす形状の金型技術なども必要だろう。
金型新聞 2023年7月10日
関連記事
100年に一度の変革期 どうする金型づくり エンジン、トランスミッション、カムシャフト、最近では電池やモータなど、自動車を動かすほぼ全ての内蔵部品の金型を手掛けるトヨタ自動車のパワートレーン工機部。豊田章男社長が「自動…
52人が考える、リーダーが持つべきもの 自動車の電動化や市場のグローバリズムが加速する混沌とした時代。金型メーカーの経営者は、この新時代にどのような能力が必要と感じているのか。進むべき方向を示す「決断力」か、恐れず挑戦…
JIMTOF2022で注目を集めたテーマの一つが、カーボンニュートラルや環境対応だ。工作機械メーカーを始め、多くの出展企業がCO2排出量の削減や環境負荷低減につながる製品や技術を紹介した。世界的にカーボンニュートラルが求…
精密金型部品 キャビティやコア、スライドコアなどの金型部品を専門に手掛ける会社がある。富山県南砺市のリバン・イシカワ。金型づくりで培った経験を生かし、独自の工夫や細やかな心配りで自動車関連メーカーの金型部門や金型メーカー…