金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

21

新聞購読のお申込み

三恵技研工業 増肉加工、超ハイテン冷間プレス【特集:プレス加工の未来】

自動車用マフラーやボディ部品などを手掛ける三恵技研工業(東京都北区、03・3902・8200)は近年、プレス加工の技術開発に力を入れる。主要顧客である自動車産業でEV化や現地生産化が進み、事業環境が大きく変化する中、増肉加工や超ハイテン材の冷間プレス加工など付加価値の高い技術の開発に挑み、事業ポートフォリオの拡大を目指す。

材料の流動、自在に制御

三恵技研工業は1948年に創業し、祖業のめっきからアッセンブリ、金属・樹脂の塑性加工へと事業領域を広げてきた独立系部品メーカー。国内外に生産拠点を持ち、製品設計から量産までの一括受注・一貫生産が可能な体制を整える。現在はドアサッシュなどの車体部品や、フロントグリルやバンパーなどの艤装部品、マフラーやマニフォールドなどの排気系部品といった自動車部品を中心に手掛けている。

プレス加工の技術開発に注力し始めたのは2020年ごろ。コロナ禍による受注減少や、EV化に伴う排気系部品を始めとした主力製品の需要減少を危惧したのがきっかけ。「EV関連部品など今後需要が見込める分野に参入したいと考えた」(長谷川彰宏社長)。

増肉ギア部品

また、自動車メーカーの現地生産化も理由の一つ。ユニット部品ビジネスを主とする同社にとって、海外現地生産の拡大は日本国内での生産減少につながる。「日本でもものづくりを続けていくために、海外に輸出しやすい部品単品ビジネスにも事業を広げたかった。ただ、それには付加価値の高い技術がないと単なる価格競争に巻き込まれてしまう。だからこそ技術開発に力を入れている」(長谷川社長)。

そこで現在取り組んでいるのが、増肉加工と超ハイテン材の冷間プレス加工。これまで切削加工や熱間プレスなどの工法が用いられ、冷間プレスでは難しいとされていた加工技術の開発に注力している。

1470MPaの冷間プレス加工(上が開発工法、下がドロー成形のみ)

増肉加工では板厚6㎜から約1・8倍の11㎜に増肉したギア部品や、ボス部をピン角に増肉した一体化部品などを開発。中でもギア部品は部分的な増肉ではなく、材料全体を増肉し、最終形状よりも薄い板からの加工を可能にした。また、ギア歯の側面は破断面を残さない全せん断とし、切削加工と同等の品質を実現した。

これにより、これまでプレス加工で考えられなかった製品設計が可能となった。「通常は市場に流通している板厚から設計するが、そうした制約がなくなるため、プレス加工を用いた製品設計の自由度が大幅に向上する」(黒川太一開発本部長)。

金型とシミュレーションが鍵

こうした技術を実現する鍵となったのが金型だ。同社では機械的構造を取り入れた独自の金型を技術顧問指導のもと開発。「金型内部を可動させることで、材料の流動方向を自在に制御し、従来では難しかった高度なプレス加工を実現した」(伊藤隆夫技術顧問)。金型加工にはミクロン単位の高い精度が要求され、プレス機にも高い精度が求められる。使用するプレス機は250㎜ストロークで水平方向の誤差は2μm以下だという。

この金型に加えて重要な技術となったのがシミュレーションだ。同社ではさまざまな条件でのシミュレーションを繰り返し、材料の挙動を解析。その結果をもとに金型を設計する。シミュレーションの試行回数は数十回に及んだものもあったという。「ソフトやPCが進化し、解析速度が向上したことで可能になった」(ものづくり開発チームの鶴谷健サブチームリーダー)。

ヒートシンクベースプレート

これらの技術はもう一つの開発テーマである超ハイテン材の冷間プレス加工にも生かされている。独自の金型と解析ノウハウによって、見込みなどを入れなくてもスプリングバックを抑制できる工法を確立。1・5GPaの超ハイテン材の冷間プレスを実現した。

「見込みを入れたり、曲げ部に細工施したり、スプリングバックを抑える方法はさまざま。ただ、そうした場合、材料ごとに条件を変更しないといけない。当社の工法はどんな材料でも同じ条件で加工できるのが特長」(研究開発グループの中嶋彬夫サブグループリーダー)。

500tの精密プレス機

これまで熱間プレスで加工されていた部品を冷間プレスに置き換え、生産性の向上、環境負荷低減を提案していく考え。「当社が手掛けている中にも熱間プレス部品が使われる製品がある。冷間プレスに置き換えることができれば、一式で受注することも可能になる」(長谷川社長)。

今後は鋳造・ダイカストからの工法置換にも挑戦する。すでに板厚の約3倍のリブやボスを増肉したヒートシンク関連部品などを開発している。「プレス加工でできるわけがないと言われるような常識外れの形状などに挑み、さらにお客さまに喜んでもらいたい」(中嶋氏)。

開発担当の中嶋氏(左)と鶴谷氏(右)

会社概要

  • 本社:東京都北区赤羽南 2-5-1
  • 電話:03・3902・8200
  • 代表者:長谷川彰宏社長
  • 創立:1948年
  • 従業員:2720人(連結)
  • 事業内容:四輪車・二輪車部品、汎用排気系部品、薄肉ステンレス加工品などの開発、製造。

金型新聞 2024年10月10日

関連記事

パンチ工業 精密機器関連が好調 22年4-9月期

パンチ工業(東京都品川区、03-6893-8007)の2022年4‐9月期売上高は、11%増の216億6500万円だった。営業利益は13.1%減の15億3700万円で、原材料・資源価格の高騰が大きく影響し、増収減益となっ…

金型メーカーに「働き方改革」は実現できるのか

課題多き働き方改革 働き方改革関連法案の施行から4年。金型業界でも労働時間短縮や生産性の向上など、働き方改革は進んでいるのか。現状を調べるため、本紙ではアンケートを実施した。調査からは、改革には前向きに取り組んでいるもの…

ツバメックス 多田羅氏が社長に就任

ツバメックス(新潟市西区、025-375-4945)はこのほど、4日1日付けで多田羅晋由氏が社長に就任する人事を発表した。山村福雄前社長は3月31日付けで辞任した。 多田羅氏は、1959年生まれ、大阪府出身。82年サンス…

黒田精工 モータコア金型の生産強化【金型の底力】

2025年までに2.5倍に 黒田精工は昨年12月、モータコア金型などを手掛ける長野工場(長野県池田町)を拡張した。新たに設立した工場棟には300t大型高速プレス機や磁石の樹脂固着システムなどを導入。電気自動車(EV)市場…

【金型の底力】東京鋲螺工機 燃料電池セパレータ用金型の開発に着手

超硬金型、第2世代へセパレータ用金型に挑戦  冷間鍛造、冷間圧造用の金型を手掛ける東京鋲螺工機は、燃料電池用セパレータ用の超硬合金金型の開発に着手した。これまで超硬合金を直彫切削した金型を「Tokyo‐ACE」と名付け商…

トピックス

AD

FARO 樹脂成型品や自動車シートの測定での3次元測定アームの活用と新製品Qua...

樹脂成型品の工程管理・不具合解析 樹脂成型品の工程管理や不具合解析の現場では、実際の製品や試作品と設計図との差異把握や、製品や金型の工程ごとの変化量把握、不具合解析や要因分... 続きを読む

関連サイト