ダイカストやプラスチック金型で金属3Dプリンタが採用されるケースが出始めてきた。造形条件の確立、レーザーの進化による高速造形など作業性の改善が背景にある。マルエージング鋼やSKD61相当材など金型に適した粉末材料が登場し…
MTA合金 高硬度と熱伝導を両立した鋼と銅の合金開発【金型テクノラボ】
高い冷却効果が必要な金型では、硬度と高い熱伝導性を併せ持つ材料が求められている。しかし、この相反する要素を両立させるのは難しい。こうした場合にはベリリウム銅を使用するケースも多い。しかし近年は安全性や価格面から代替え品を望む声も多い。当社では鋼と銅の特長を持つ合金を開発した。その開発背景や特長などを紹介する。
はじめに
硬度と熱伝導性を兼ね備えた材料は開発者からすると、ほぼ不可能な要求と言っても良い。硬度を出すのは鉄系材料で、熱伝導性を出すのは銅系材料になるが、両者はその性質上決して溶け合うことができないからだ。つまり硬度と熱伝導性は相反する性能と言える。
一般的に金型で使われる鋼系材料は、硬度がHRCで30~65程度まであるが、熱伝導率は高くても40W/m・k程度しかない。一方、銅合金系のアルミ合金、亜鉛合金などは硬度HRC30以下だが、100W/m・kの高い熱伝導率を持つ。
ベリ銅の代替え要求高く
そうした中「硬度と熱伝導を兼ね備えている」と言われるのが、ベリリウム銅(25合金)である。硬度HRC40、熱伝導率105W/m・kもあり、金型の入れ子を始め、ケーブルやコアピンなどで大変多く使用されている。
しかし「ベリリウム」が発がん性物質であるため欧米では使用を禁止する企業が多い。加えて、銅価格の高騰によると入手性の悪さから代替材の開発が求められてきた。
銅と鋼の合金開発へ
当社は不可能と言われてきた鉄と銅の合金化技術(特許)を確立したベンチャー企業で、2019年からベリリウム銅の代替材開発を始めてきた。そして足掛け5年でついにその開発に成功した。
その名称は「MTA-FeX2」。出荷時硬度がHRC28~32、窒化処理等表面処理でHRC60以上、熱伝導率は90W/m・kとベリリウム銅と比較しても引けを取らない性能を持つ。
熱処理の課題を克服
開発する中で苦労したのが鋳造後の熱処理。MTA-FeX2は熱処理による析出硬化型材料だが、鉄と銅は融点の差が大きく最適な熱処理条件を出すのは困難を極めた。
失敗を何度も重ねながら熱処理条件を模索し、熱処理を可能にした。これにより、金型メーカーが求める硬度を得られるようになった。なお、熱処理は日本国内で定評のあるメーカーに依頼するため、品質は格段に安定して提供できる。
熱処理で高硬度も可能
MTA-FeX2にはさまざまなメリットがある。一つ目は前述したように窒化処理やめっきなど表面処理が可能な点だ。特別な技術で窒化するエジソンハード処理やカニボロンめっきや、ニウフォスⅡといっためっきも問題なくできる。
HVで750~800程度、 HRC60まで硬度が上げることが可能だ。熱伝導率は維持したままなので、ガラス樹脂成形の金型材などでも使用ができる。すでに試験的に使用しているユーザーからは「銅合金と鋼材の中間的材料として活用できる」と好評を頂いている。
加工性と入手しやすさ
二つ目の利点が加工性だ。ベリリウム銅は工具に負荷がかかり寿命が低下する短所がある。MTA-FeX2は通常の鋼材と同じように加工性が良く工具に負荷もかからない。磁性があるためマグネチャックに装着可能で加工しやすい。
第三に安定流通と価格だ。ベリリウム銅に比べ安価でコストダウンが可能で、材料リスクもないため入手も安全性も問題ない。
また、提供可能サイズも大幅に改善した。これまでW200×L100×T50㎜が最大だったが、W300×L300×T100㎜まで提供できる。これ以上のサイズや、丸材も製造は可能なため個別で応じることができる。
今後について
SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれるなか、当社は「鉄から造る銅合金で持続可能社会の実現」を提案していきたい。「銅」を適材適所に使用するため金型や軸受など、可能な分野でMTA合金への置き換えを推奨していく。また、安くて使い勝手の良いコストパフォーマンスに優れた超合金の開発を念頭に、より一層研究開発を進めていきたい。
MTA合金
- 執筆者:代表取締役 柴田徹郎氏
- 住所:東京都港区高輪3-23-17
- 電話番号:03・6824・7058
金型新聞 2024年11月10日
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