超精密、高精度、短納期、長寿命化—。こうした高度化する金型へのニーズに対応するには、あらゆる加工技術や素材技術が必要だ。中でも、鏡面性が得られるのか、離型性が高いのか、長寿命化が図れるのかなど、金型の本質的な機能に直結…
守りから攻めへ
ー本紙金型メーカーアンケートー
守りから攻めの設備投資に転じる金型メーカーが増えている。日本工作機械工業会によると、金型メーカー向けの受注額の4―9月期累計は前年度比で4割超増加した。これまでの買い控えの反動や、補助金や減税などの政府の後押しもあったが、積極的な投資姿勢が見え始めた。本紙が10月に行ったアンケートでも、更新投資以上に生産性向上や技術開発などを目的とした投資が目立つ。来年度も減税や補助金も継続される見込みが高く、積極的な投資を継続する金型メーカーは多い。
日本工作機械工業会の統計によると、今年4―9月期の金型メーカー向けの受注総額は185億円で、前年同期比で42%増加した。ある工作機械メーカー幹部は「リーマンショックから7年経ち、投資を我慢し続けていた金型メーカーも多く、その反動も大きい」とみる。省エネ補助金やモノづくり補助金、地方自治体が実施した補助金に加え、100%減価償却できる投資減税も後押しとなった。
本紙が実施した投資に関するアンケートでもそれが明らかになった。今年1億円近く投資した金型メーカーは「6年ぶりの設備投資。補助金がなければこの半分程度しかできなかった」と話す。投資した企業のうち8割が何らかの補助金や減税を活用しており、政府の諸施策は金型メーカーの投資の背中を押したことは間違いない。
注目すべきは投資の目的や内容だ。アンケートでは、既存設備からの「更新投資」も少なくなかったものの、「増産」や「技術開発」、「生産性向上」を目指すとした回答が上回った。「機械と技術が揃って初めて競争力が付く」(プラ型メーカー)、「大型向けを強化する」(ダイカスト金型メーカー)、「(高精度な設備で)品質で差別化を図る」(プラ型メーカー)、「新規事業の投資をする」(プレス型メーカー)など攻めに転じる意見も少なくない。
一方で、投資基準は各社各様だ。「売上の1割程度を投資に回す」計画的な企業もあれば「投資は他社にないプラスアルファを維持強化するため。必要なら投資するし、現有設備でよいなら投資しない」や「自らのものづくりを実現するために投資する」など独自の考えを持つ経営者もいる。ただ、受注産業であるがゆえだろう。実際には「景況感の判断」や「減価償却内で投資する」と慎重な声も多い。
今後は、補助金などによる「需要の先食い」を懸念する声も多い。しかし、100%減価償却できる減税は、中小企業では2017年3月末まで続く。次年度も補助金が実施される見込みが高いことから「攻めるなら今しかない」(冷間鍛造型メーカー)や「この数年は投資を継続する」(プラ型メーカー)などと強気な意見が多い。
昨年度から今年にかけて投資の有無を聞いたところ、「投資した」企業が42社、「しなかった」が14社で、75%が投資している。さらに「年度内に投資予定あり」は36社にもなる(しなかった企業もした企業も重複あり)。投資しなかった企業でも「近いうちに投資する」、「目下次年度の投資向け機械を検討中」(粉末冶金メーカー)や「来年の補助金で申請したい」(ダイカスト型メーカー)とする声もあり、金型メーカーの投資マインドは高まっている。
「2000万以上から3000万円未満」が10社、「3000万以上から5000万円未満」10社、「5000万円から1億円未満」12社、「1億円以上」10社となった。中でも最多は4億円という企業もいる。ちなみに、その企業はキャッシュリッチで、100%即時減価償却したそうだ。
投資内容については千差万別。マシニングセンタ(MC)、平面研削盤、放電加工機、複合加工機、CAD/CAMなど、ボトルネックとなる工程を改善したり、新規分野に挑戦したり、それぞれ目指す方向で投資している。
自由回答で投資目的について聞いた。重複や意見が多様なため、本紙で再分類した。「増産」とする回答が22社、「更新投資」が16社で、増産目的が更新投資を上回った。
それ以外では「新規分野への進出」(プレス型メーカー)、「昨年参入した新分野の強化」(鍛造型メーカー)、「大型化を狙う」(ダイカスト金型メーカー)、「外注していたパーツの内製化」(プラ型メーカー)、「高精度設備を武器に金型の高付加価値化を狙う」(プラ型メーカー)など、積極的に攻める設備投資を考える企業が増えている。
補助金の利用について聞いたところ「省エネ補助金」が20社、「ものづくり補助金」も20社が活用したと回答した。都道府県が独自に実施している補助金などを活用した企業が6社あった。3つの補助金を全て活用した「補助金マスター」も。
一方で、自らの信念に基づき、補助金を活用しないという経営者もいた。その理由として「計画的に自らの力で投資しなければダメ。自ら購入した機械だと大事にする」(プラ型メーカー)や「(補助金によっては)手続きが煩雑で、本来必要でないものまで買う必要が出てくるので」(冷間鍛造型メーカー)などがあった。
100%を即時で原価償却できる同税制について尋ねたところ、40社が「知っている」と回答。しかし、「活用している」とした企業は22社にとどまっている。財務事情によって活用の有無は異なるようだ。一方で、「知らない」と回答した企業は6社だった。
投資に対する考え方や目的は各社様々だが、投資を重要だとする声は同じだ。「他にないプラスアルファの技術や強みが生き残る。それを強化するために投資する」(プラ型メーカー)、「進化した機械がないとそれに見合う仕事を受注できない」(プラ型メーカー)。久々に投資したダイカスト金型メーカーは「新機種は精度が驚くほど進化している。古い機械だけでは戦えない」。「1000分台を安定的に出し、金型の品質評価を高めて差別化につなげる」(プラ型メーカー)などの意見があった。
投資基準については、金型が繁閑の差が大きいことから、仕事量を考慮するメーカーや資金負担を小さくしたい慎重な企業が多い。「利益処分後の利益と減価償却内」(プレス型メーカー)、「減価償却費分は投資したい」(ダイカスト金型メーカー)などの声が多い。「計画的に投資したいが難しい」(粉末冶金メーカー)や「社長の勘」(プラ型メーカー)という正直な意見も。一方で「毎年何かは投資すると決めている」(ゴム型メーカー)や「売上の1割は投資する」(冷間圧造型メーカー)と計画的に企業も一部にはある。
金型新聞 平成27年(2015年)11月14日号
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