金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

MARCH

19

新聞購読のお申込み

―成形をゆく―
笠原成形所(新潟県)

IT活用したスマート工場

情報をリアルタイムで把握

 精密部品の射出成形を手掛ける笠原成形所(新潟県南魚沼市、025・776・2141、笠原利博社長)はIT技術を駆使した、スマートな工場づくりを進めている。その中心にあるのが経営理念にもある「21世紀型の職人」だ。その職人像とは「勘だけに頼らず理論づけができ合理的判断ができる技術者」(笠原社長)のこと。独自の手法でそうした職人を育成したり、金型の能力を最大限引き出したりするなど、IT技術を最大限活用し、21世紀型の成形メーカーを目指している。

タブレットから一目で

つながるスマート工場

 同社が強みとするのは、型締め力20~120tまでの微細精密な樹脂成形。現在は自動車関連の電装部品のほか、内視鏡関連など医療部品の成形が柱だ。金型は購入、支給合わせて年300型程度使っている。

 その中心にあるのが生産管理システム「MICS」(ムラテック情報システム)で、あらゆる情報をつなげるスマート工場の頭脳の役割を担う。受注から発注までを行う一般的なシステムにとどまらない。成形機の稼働状況、作業標準管理などを工場全体で必要な情報をリアルタイムに把握、伝達することができるようにした。

 その情報を最大限活用すべく、全員にタブレット端末を配布。製造、検査、金型保守などそれぞれが必要なデータがすべて紐づけられており、ある製品をタップすれば、図面、履歴、注意すべきポイントなどが一目でわかるようになっている。

 さらに必要な機能をカスタマイズ化し、笠原流にアレンジしている。例えば品質管理。成形品質は金型、成形機、温調機など様々な要素が複合的に絡み合う。追加した品質監視システム「MultiEDTL」(ソディック)は1ショットごとに、温度や圧力などのデータを蓄積、不良品判定にも活用している。トレーサビリティでは、生産指示書にQRコードを付け、照合精度の向上を図っている。

 成形条件の分析用にスーパーエンプラ用の成形支援システムも開発した。樹脂は同じ素材を同じ成形機、同じ条件で成形しても「重さが異なったり、製品ができなかったりすることもある」(関正隆部長)。大抵は樹脂圧を上げるか、樹脂温度を上げるかで対応するが「どちらが正解かわからない」ため、成形条件を数値化し、ベストな選択をできるようにしている。

金型能力を最大限に活用

 笠原社長は「金型を大事に使う」と話す。その意図は金型の持つ能力を最大限まで引き出すためだ。「金型は数ミクロン、最近ではナノレベルになるほど進化している。それを最大限引き出せてないのは成形メーカーの責任でもある」との思いがあるからだ。そのための工夫も徹底している。
 例えば金型の取り付け。クレーンで取り付ける際、キャビとコアの数ミクロンレベルの微妙なずれも生じる。「そのまま成形すれば製品ができても、金型に負荷をかけている」。どのくらいの負荷が金型にかかりセットされるか、正確に判断するために質量をはかるデジタルスケールを使うという。
 加えて、専用治具も開発し、取り付け時の微妙な誤差を抑えるようにしている。

笠原成形所が手掛けた精密な樹脂成形品

人材育成も笠原流

 同社では積極的に資格取得も推奨している。検査部門ではパート従業員も含めた全員が品質管理検定4級以上を取得している。製造現場であれば、射出成形技能士という風に必要な資格を明確化。
 支援も「笠原流」で行う。それが、関正隆部長らが中心となって作成した約180ページにわたる専用プログラムだ。射出成形、成形材料、成形条件の決め方、成形後の作業など全8章からなる本を作成し、教育を行う。またここも同社らしく、教育前と後での理解度も数値化。「実は曖昧だった知識がクリアになった」という声もあるなど、評判は上々だ。

小ロット化への対応カギ適正在庫を数値化

 近年同社が注力する医療機器部品は、成形点数は比較的多いが、コネクタなどと比べると大半が小ロット生産。しかも、ユーザー企業から発注計画が出ることも稀だ。
 そうなると、ある程度の在庫を持つ必要も出てくる。ここでも、MICSが活躍している。これまで直近の1年や数カ月といった出荷情報をデータ化しており、それに基づいて適正在庫を割り出している。その効果は大きい。「以前はその見込みも立たず、無駄な廃棄も出ていたが、最近ではかなり削減された」(関部長)という。
 笠原社長は「小ロット対応は今後も重要になる」とみており、ほかの取り組みも模索中だ。小ロット品では耐久性も問題なく、早く作れる可能性があることから、金属3Dプリンタによる金型製造も検討している。複数の企業とその実用化に向けて話し合いを進めているという。
 さらにMICSも進化させる予定だ。MICSを核に、品質管理、成形機、温調機などをネットワーク化し、トータルでの管理を行うほか、監視カメラによる良否確認などにもつなげ、高品質で安定した製品づくりを目指す。


会社メモ

笠原社長
笠原利博社長

本社工場=新潟県南魚沼市五日町335―1
創  業=1973年
代表者=笠原利博社長
売上高=3億9200万円(2015年度)
従業員数=50人
主な事業内容=精密プラスチック成形(型締め力20t〜120tクラス)
保有設備=プリプラ式成形機34台(ソディック)など。


金型新聞 平成28年(2016年)6月3日号

関連記事

阪村エンジニアリング 鏡面加工のロボシステムを販売

多品種少量生産向け 冷間鍛造金型を製造する阪村エンジニアリング(京都市伏見区、075-631-5560)は、鏡面加工のロボットシステムの販売を始めた。協働ロボットとブラスト機を活用し、従来の手仕上げによる研磨工程を自動化…

この人に聞く
オープン・マインド・テクノロジーズ・ジャパン 菅井 晃 社長

5軸加工はもっと広がる  5軸加工に強いCAMとして評価の高い「hyperMILL(ハイパーミル)」を扱うオープン・マインド・テクノロジーズ・ジャパン(東京都武蔵野市、050-5370-1018)。02年の設立以来、約2…

【インタビュー】名古屋精密金型 ・坂元 正孝社長「工場間の連携強化へ 」

プラスチック金型を手掛ける名古屋精密金型(愛知県知多郡東浦町、0562-84-7600)は7月、坂元正孝氏が社長に就任した。同社の工場は本社、熊本、宮崎とベトナム、インドネシアの5工場で金型を製作している。金型業界を取り…

金型の日、名古屋で式典

11月25日、メルパルク名古屋 トヨタ自動車元社長・張富士夫氏らが講演 永年勤続優良表彰も 日本金型工業会(小出悟会長)は11月25日、名古屋市東区のメルパルク名古屋で、第48回の金型の日の式典を開催する。記念式典では、…

NDES クラウドサービス拡充<br>エリジオンと提携

NDES クラウドサービス拡充
エリジオンと提携

 NTTデータエンジニアリングシステムズ(NDES、東京都大田区)はクラウドサービス「Manufacturing-Space(以下MS)」のサービスを拡充する。エリジオン(静岡県浜松市)と提携し、データ品質管理サービス「…

関連サイト