金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

AUGUST

28

新聞購読のお申込み

鋳造に独自の新工法
マツダ

特集 次世代車で変わる駆動部品の金型鋳造に独自の新工法

 次世代自動車の技術は電動化に限らない。注目されるのがエンジンの進化だ。燃費性能を追求する新型エンジン「スカイアクティブ」。多くの自動車メーカーが電動化に力を入れる一方、マツダは独自のエンジン開発を突き詰める。なぜエンジンにこだわるのか。それによって金型に求められることは。金型づくりの取り組みは。パワートレイン技術部の杉中隆司部長に聞いた。

トヨタ自動車や日産自動車など他社が電動化に舵を切る中で、マツダはなぜエンジンにこだわるのでしょうか?

 それはエンジン車市場の将来性です。確かに電動化自動車は近年、地球環境に優しい次世代の車として注目され、市場も広がっています。しかしそれはあくまで日本や欧州、北米などが中心です。

 短期的な未来を予測すると、アジアや中東、アフリカなどの市場はやはりエンジン車が主力。人口増加や経済発展のスピードからみて、2030年においても内燃機関を搭載する車はグローバル市場では90%、それ以降も需要は充分見込まれると見ているからです。

 電動化自動車の一つ、ハイブリッド車は電気とエンジンの技術の融合。最高のエンジンを突き詰めれば、すなわち最高の電動自動車が完成する。いつか電動自動車をつくる日が来るかもしれません。その時のために今はエンジン開発に力を入れる。それにエンジンの技術には電動化に活かせる技術が沢山含まれています。その意味でもエンジンにこだわる理由があるのです。

新型エンジン「スカイアクティブ」

マツダのエンジンの代名詞ともいえる「スカイアクティブ」。エンジン開発で取り組んでいることは何ですか?

 薄肉軽量化による燃費改善と高精度化による燃焼効率の追求です。薄肉化し燃焼効率を高めることでエンジンの燃費性能は上がる。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの長所を融合させ、独自の火花点火制御圧縮着火を採用した最も新しいエンジン「スカイアクティブX」は薄肉化と燃焼効率を突き詰めました。

 ただ、スカイアクティブXは極めて肉厚が薄く、3次元局面の形状が複雑。しかも燃焼室の寸法精度が厳しく(従来エンジンと比べて約80%改善)、その室内の温度や圧力を制御するための冷却水路(ウォータージャケット※WJ)を張り巡らせている。造形するのがとても難しい。そこで、そうした複雑な形状を造形するため独自のAPMC(Advanced Precision Mazda Casting)工法を開発、進化させてきました。

「CAE」で修正レスの金型
金型メーカーと二人三脚、挑戦続ける

APMC工法とは?

 これはコスワース鋳造法を改良した工法で、一部を除いて形状の複雑な部分は砂型で造形します。砂型は造形後に個々のパーツとして取り出し、組み合わせるので、従来の金型ではできなかったアンダーカットのある複雑な形状や、細くて曲がりくねったWJ、薄肉の形状も造形できます。

 APMC工法は、アルミ鋳造後に上下からシャワーを浴びせて冷やします。これによって、ただ冷やすだけでなく、焼入れの効果もあり、熱処理の工程も短縮できます。そのため金型による鋳造後に熱処理していた従来の工法と比べて大幅に生産時間を短縮。シリンダーヘッドで30時間から3時間になりました。

ウォータージャケットを砂型を造形する金型

造形方法がAPMC工法へと変わったことにより、金型づくりが変化したこと、金型づくりで取り組んでいることは何ですか?

 金属は一部分だけになり、それ以外の部分の造形に用いる砂型を造る金型が必要になりました。しかしその砂型の形状が極めて複雑で難しい。従来であれば金型で鋳造試作し改良を重ねて完成させていましたが、それでは時間も手間もかかり過ぎる。エンジン開発のスピード感についていけない。

 そこで取り組んでいるのがCAEの活用です。砂型の形状や造形条件を設定すると砂を流し込み完成するまでの温度や形状変化を「見える化」できる。そんなCAEを独自開発し金型づくりに生かしています。今ではこのCAEを用いることで、ほぼ修正レスの金型を作ることができます。

吸気・排気ポートの砂型を造形する金型

今までにないCAE。開発で苦労はありませんでしたか?

 苦労や手間は並大抵のものではありませんでした。金型で作るのは砂型。その砂型で作るのはエンジン部品。部品を組み立ててエンジンが完成する。金型に求められるのは砂型の完成度ではなく、最良のエンジンを生み出す部品の砂型を高精度に造形すること。ですからCAEの開発では、金型、鋳造、加工、そのあとの組立てで生じる歪みや応力など全てを考慮する必要がありました。

 ゆえに何度も何度もトライし、変形が生じるメカニズムを突き詰めて改善しました。2005年に開発に着手し、実用を始めたのは10年でした。

CAEは完成したということでしょうか?

 いえいえ。まだまだ道半ば。今まさに挑んでいるのがWJ造形の変形解析です。そのほかにも課題はいくつもある。開発当初と比べて達成度はまだ60%といったところです。これからも課題は尽きません。エンジンの機能が進化すれば、また新たな課題が現れる。逆に言えば、課題が無くなったらマツダのエンジンの成長は止まります。

砂型と鋳造したシリンダーヘッド

金型メーカーに望むことはありますか?

 金型の設計はしていますが金型を造るのは金型メーカーにお願いしています。その金型メーカーに望むことはマツダの自動車、エンジン、そして金型への思想やものづくりの現場をしっかりと理解して金型を造ってくれることです。

 例えば金型で造形した砂型は組み立ててから、鋳造の工程へと進みます。その組立工程では必ず砂型が互いに擦れてしまう。その際、砂が剥離しにくく、しかも組み立てやすい。そんな金型メーカー視点での提案をして頂けると嬉しいですね。組立工程にも優しく、そしてマツダが目指す最良のエンジンを造れますから。

 取り引きする金型メーカーの技術者には2年ほど、マツダに出向してもらって金型設計や鋳造の工程を体験してもらっています。金型メーカーはマツダのエンジン開発に欠かせません。これからもエンジンや金型への思いを共有し、挑戦を続けたいと思っています。

金型しんぶん 2019年9月10日

関連記事

松浦機械製作所 ハイエンドMCを刷新、高速・高精度に金型加工

松浦機械製作所は、ハイエンドのリニアモータ立形5軸制御マシニングセンタ(MC)「LF‐160」をモデルチェンジし発売した。主軸振動を大幅に低減したほか熱変位補正機能を拡充し、高速回転領域における加工精度を高めた。電子機器…

設計自由度高めた3D造形技術 大陽日酸【金型テクノラボ】

金属3Dプリンタが試作造形や最終製品にとどまらず、金型づくりでの採用も進んでいる。活用が広がる一方、多くのプリンタで課題とされるのが、オーバーハング部を支えるサポート部への対応と、熱効率を最大化するための大口径化だ。本稿…

牧野フライス製作所が微細精密加工の大型機

牧野フライス製作所が微細精密加工の大型機

自動車用ライト金型に  牧野フライス製作所はこのほど、大型サイズの微細精密加工機「iQ500」を発売し、9月から出荷を開始する。既存の「iQ300」を一回り大きくし、高精度で大型化する自動車用ヘッドライトの入れ子金型など…

【特集:2024年 金型加工技術5大ニュース】1.大型加工

ギガキャストで需要広がる 大型ダイカストマシンで自動車の構造部品を一体鋳造する「ギガキャスト」が注目を集めている。国内のダイカストマシンメーカーは型締力9000tのマシンを開発。海外では1万3000tで試作が行われるなど…

高硬度綱の高能率加工
オーエスジー

Aブランド高硬度鋼用超硬ボールエンドミルシリーズ 現場の課題  金型加工で特に増えている高硬度材の加工を高効率化したい。 提案・効果  Aブランド新製品の高硬度鋼用超硬ボールエンドミル高能率型4刃「AE-BM-H」と高精…

トピックス

関連サイト