金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

09

新聞購読のお申込み

【インタビュー】本田技研工業・田岡秀樹氏「自動車は『CASE』から『PACE』へ、金型の重要性は変わらない」

本田技研工業 四輪事業本部ものづくりセンター 完成車開発統括部車両企画管理部 生産製造企画課製造デジタル・グループ エキスパート・エンジニア 田岡  秀樹氏

CASEから「PACE」へ

金型の重要性変わらず

 アフターコロナの世界で、自動車はどう変わっていくのでしょうか。コロナ前と言っても、たった10か月前ですが、自動車業界は「CASE(つながる、自動運転、シェア、電動化)」にどう対応していくかが課題でした。しかしコロナによって、この潮流は大きく変わり、自動車はCASEから「PACE」になっていくとみています。

 PACEとは何か。まず、医療従事者を安全に運ぶには「A=自動運転」は不可欠です。「C=つながる」機能はユーザーの利便性には必要な要素です。電動車の拡大スピードは見極める必要があると思いますが、環境問題から「E=電動化」の流れは変わらない。

 コロナで最も影響を受けるのは「S=シェア」でしょう。感染リスクを考えると、自動車をシェアする流れは相対的に弱まります。その代わりになるのが、「P=パーソナライズド」だと思います。個人的な移動手段や、嗜好品としての自動車に対するニーズです。Sはシェアではなく、嗜好品に不可欠な「スタイリッシュ」になると思います。

 では、PACEで自動車や金型はどう変わるのか。結論から言えば金型の重要性は変わりません。むしろ、よりその重要性は増すと思います。しかし、コロナ前から自動車業界は「プレミアム」と「グローカル」という2つの方向がありましたが、Pでそれがより鮮明になると思います。

 具体的にみていきましょう。嗜好品のプレミアムブランドとして代表的なBMW。同社の最上位機種の「7シリーズ」では、カーボンコアボディを採用するなどハイエンドな自動車づくりを進めています。日本では、今年のワールドカーデザインオブザイヤーを受章した「マツダ3」が好例でしょう。デザイン志向が強く、複雑な形状を採用しており、デザイン特許を取得しています。

 一方、グローカルでは、ダイハツやホンダが挙げられます。ダイハツの「コペン」は、個人の嗜好を満たすため外装品の着せ替えが可能です。ホンダの「N‐BOX」はホンダ史上最も早く販売が200万台に達した車種ですが、日本ならではのローカルな軽自動車でパーソナルな移動手段です。

 プレミアム、グローカルどちらの方向でも、金型が無ければ実現できません。カーボンコアボディや複雑形状には高度な金型が必要です。コペンでは外装品を効率よく作る金型が重要ですし、私が携わった「N-BOX」も金型技術がなければ実現できませんでした。

 つまり、PACEの時代でも金型は重要であり続けるし、もうすでにその変化に対応し始めています。だから、金型メーカーの皆さんには、ひるまずに、自らの技術や強みを見つめ、進んで行って欲しいと思います。

 とはいえ、どんな時代でもリーダーはデータに基づき、仮説を立て、未来予想図を描き続けなければいけません。そこで、最後に私なりの4つの未来の方向性を紹介したいと思います。

 1つ目は「車はより人の脚になる」ということ。ホンダだとスーパーカブのような簡易な移動手段が求められると思います。

 2つ目は「どこでも仕事ができるようになる」ので、1つ目と同じく、ちょっとした移動に伴う、パーソナルな移動手段が必要になると思います

 3つ目は「車はより物を運ぶ補助道具になる」ということ。4つ目は「バーチャルとリアルの融合が加速する」ということ。例えばシミュレーション技術。これまでのように塑性、塗装、溶接、組立など工程ごとでなく、自動車全体で解析を進めることなどが考えられます。

 いずれにせよ、アフターコロナの世界でもPACEの時代になっても、金型屋はすでに前進しています。今後も変わらず、自らの強みを見直し、他社にできない、それぞれの「模倣困難性」を追求していくことが大事だと思います。

金型新聞 2020年11月10日

関連記事

立形5軸MCによる自動化を提案 高橋章氏(安田工業 営業本部国内営業部 部長)【この人に聞く】

EV金型を高精度加工、自動化提案や技術向上に力 安田工業はこのほど、立形5軸マシニングセンタ(MC)の新機種「YBM Vi50」を発表した。立形5軸MCの中型機で、EV(電気自動車)部品の金型を高精度、高能率に加工できる…

不二精工 淡路島で新工場を稼働し、大型化対応や研究開発を強化【金型の底力】

同社は1920年の創業で、接点などの電子機器向けのプレス部品を強みに業容を拡大してきた。近年は、車載部品での採用も進んでおり、その精密な金型とプレス技術は世界中で認められている。 例えばスマートウォッチに搭載された気圧セ…

金型取引改善分科会会長 渡辺隆範氏に聞く 金型業界で足並みそろえ、値上げを実現【特集:どうする値上げ】

業界の弱体化は顧客にマイナス ユーザーと金型メーカーはどちらかが欠けても成り立たない「イコールパートナー」だと訴えてきました。我々の事業を安定させるためにも、値上げは粘り強く要求していくべきで、そのためには足並みをそろえ…

この人に聞く
パンチ工業 森久保 哲司 社長

ものづくりへの回帰 昨年11月、パンチ工業(東京都品川区、03-6893-8007)の社長に就任した。「ものづくりへの回帰」を掲げ、商品開発や加工技術のレベルアップなどに取り組み、今まで以上にユーザーの要求に応えていく考…

「品質の安定化を図る」阪村エンジニアリング社長・松井大介氏

EV化への対応加速 まつい・だいすけ1975年生まれ。大阪府出身。2000年龍谷大学国際学部卒。1999年同社入社(在学中にアルバイト入社)、2009年取締役製造部長、21年代表取締役に就任。座右の銘は「意志あるところに…

トピックス

関連サイト