昨秋、日本金型工業会は6年ぶりに改訂した「令和時代の金型産業ビジョン」で、金型メーカーはこれまでのように単に言われたものを作るだけの「工場」から、顧客に価値提供する「企業」への変革が必要だと指摘した。これまで続けてきた…
久野金属工業 金型・プレス・組立一貫生産【金型の底力】
プレス業界の活性化に
ハイテン材など高張力鋼板や難加工材のプレス金型及びプレス加工を手掛ける久野金属工業は、次世代車向けのプレス部品の製造を強化するため、約30億円を投じ、愛知県豊明市に新工場を建設。金型からプレス加工、溶接、洗浄、組立まで一貫生産体制を構築した。来年から課題となる物流の2024年問題も考慮し、「物流の利便性も含め、顧客の近い場所で生産することで次世代車向けの部品受注に注力したい」と久野功雄副社長。
同社が得意とするのはハイテン材など難加工材向けのプレス加工技術。長年培った高機能な金型を軸に、他社にないプレス機を並べた多工程のロボットプレスラインで、精密絞りや板鍛造、ファインブランキングなど各種プレス加工を複合化し、難加工材加工を実現。

新工場ではロボットプレスラインに加え、ファイバーレーザー溶接機や洗浄装置を導入し、駆動モータ筐体の冷却回路の組立やEVやHV車に搭載するECUハウジング向けの洗浄・組立に活用。本社工場も含め、金型製作からプレス加工、溶接、洗浄、機械加工、組立まで一貫生産を確立。
昨今はデータによるモノづくりが進化しているが、「ハイテン材は素材自体のバラツキが多いため、金型のノウハウが重要」と久野副社長。金型は長い年月をかけ技術を蓄積・昇華させていくもので、最後の仕上げ(調整)で大きな違いが出る。直近では板厚2・6㎜の780ハイテン材の深絞り部品を受注するなど金型技術への評価は高い。

同社は昨年、『IoT GO CAE』を発表。金属プレス成形シミュレーション(CAE)用素材データベースのクラウドサービスを開始。同サービスは愛知県の重点研究プロジェクトの一環で、名古屋工業大学や大同工業大学と共同開発し、名古屋市工業研究所なども参画。従来、素材データは各種CAEによってデータの有無があり、高い精度でシミュレーション結果を得るには豊富な素材データを持つことが重要。そのため、高額な試験機を導入する企業も多く、「高精度な素材データを保有することで量産性や精度の安定化につながり、プレス加工のレベルを向上させる」と久野副社長は指摘。
『IoTGO CAE』は月額1万円から素材データを活用できるクラウドサービスで、ハイテン材など約50種類のデータを共有化する仕組み。「これまでの素材データは実素材とのバラツキが考慮されておらず、試験データもシミュレーションで使用するデータに置き換える必要があり、企業によってシミュレーションを活用したくても出来ない状況だった」とし、各社・各研究機関が測定、同定した素材情報を共有化することで、素材のバラツキを考慮した高度なシミュレーションができ、より良いモノづくりにつなげる。久野副社長は「我々が競争するのは素材情報ではなく、金型構造やプレス工程設計。情報を共有化することでプレス業界の発展に貢献したい」と共有化の意義を語る。

同社は今年創業76年目で、目指すは100年企業。それには軸である金型の技能伝承が不可欠。「金型作りを長く支えるベテランがいる一方、若手への伝承が課題だ」。そこで、クラウドサービスとして展開する『IoTGO DX』を活用し、組立時の確認事項などチェックシートをリアルタイムで見える化させ、ベテランが持つノウハウの共有化を進める。技能伝承は金型業界にとって大きな課題。100年企業を目指し、次世代の金型人材の育成を図る。

会社の自己評価シート

会社概要
- 本社: 愛知県常滑市久米字池田174
- 電話:0569・43・8801
- 代表者: 久野忠博社長
- 創立: 1947年
- 従業員: 352人
- 事業内容: 自動車用及び産業用部品の設計・開発、金型製作、プレス加工、溶接、組立、機械加工、表面処理など。
金型新聞 2023年12月10日
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