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【特集:新春金型座談会】広がる世界市場をどう開拓する(Part3)
日本の価値はどこにある
量産支える金型や知見
松岡 先ほど松野さんが安く作ると話されましたが、私は金型を安くしたくないですね。金型は本来高くなきゃいけないのに、どんどん下がっています。持続的に経営をしていくためにも、値段は下がらないようにしたいと思います。
松野 私も金型は高く売りたいです。でも国内で営業すると「松野金型は3割高い」と言われます。それは日本の金型の価値をユーザーに評価して頂けていない状況があるからです。
国内回帰が始まっているのに、なぜ金型価格が上がらないのか。大手ユーザーは一次サプライヤーには国内で発注してます。でも、二次、三次は海外の安い金型を使っている。結果、コストテーブルには安い海外製が残るわけです。それが現実です。だから、安く作れるところを確保する必要もあると思っています。安く作っても価格を下げようと思ってはいません。儲けるには安く作る手段も必要だと思います。
松岡 そうですね。私もいずれ高くなると思いますが、やはり金型メーカーが妥協してはいけない。 お客さんは大事ですけど安くしすぎじゃないかなと思います。世界では、安い金型でいいというニーズもあります。ただ、私はそこに入りたくない。そのために、他社と違う金型を作る必要があるし、 高い性能の金型を作らなければ、お客さんも買ってくれません。あと高く買ってくれる市場で勝負したいと思っています。
松野 金型を高く売る一つとして、インドのパートナーとヨーロッパの展示会に出展します。日本で金型を作って海外で製品を売る。インドのパートナーが売る量産品の単価は安いですが、400万ショットを打つような部品もあります。量が多い部品の金型は高く評価してもらえます。実際にインドでは日本企業より良い価格を頂いています。
山本 そこがポイントでしょう。インドでは到底製造や調達できない金型を提供できる部分を松野さんのパートナーは評価しているのですよね。
松野 我々の技術は本当に欲しがられているということを感じました。
山本 そうですね。安定した成形品を供給できる金型や企業が期待されています。量産終了まで壊れない金型、それを保全したり、アドバイスしたりできるという皆さんのノウハウは、海外で凄く評価されつつあります。
つまり、日本の金型は競争力があるということ。それを再認識することが必要です。金型の「価値を売る」取り組みや考え方ですね。値段で勝負する営業は最低という認識を持つべきだと思います。
松岡 そうですね。先日、アメリカのお客さんに「もう日本企業とは仕事したくないんだ」と言われました。理由は「値段の価値が理解できてないからだ」と言うのですね。日本企業はスペックが高いのに安いために儲からないそうです。そういう現実がいろんなとこで起き始めています。
松野 ある海外企業では、日系企業から受注することで「品質の高さ」の証明になるのですが、価格が厳しいため、日系の仕事を1割以下に抑えている企業もありますね。

1949年創業のダイカスト金型メーカー。主に自動車のエンジン、トランスミッションの金型を手がける。近年は車体のフレーム関連、バッテリーケースの試作開発型にも携わる。93年にタイに進出。自身もタイの社長を経験し、2012年に社長就任。15年にはメキシコに進出した。昨年はギガキャスト向け金型で実績を持つイタリア・コスタンプ社と提携。金属3Dプリンタを活用したポーラス金型などの研究開発を進めるほか、独自商品の開発に注力する。
金型の価値向上のために外需拡大を
海外では部品供給にも活路
山本 最後に今の課題と今後どうしていくのかをお聞かせください。
松岡 金型の価値を高めたいし、価格を上げていきたい。そうしないと若い人が入ってきてくれないからです。そのためにも国内で競争するのではなく、海外で日本のいいものを積極的に売りたいですね。
当社としては、北米で伸ばしていくことに挑戦したい。その1つとして現地のサービスを拡充していきます。当社ができないところは他の会社とも協力しながらやっていくつもりです。
山本 協力とは。
松岡 海外で連携できるパートナーを増やしていくということです。現在国内で9社が協業しています。樹脂やプレス、ダイカストでも当社と被ってない分野をやっているメーカーが大半です。ほとんどの会社は北米に販売拠点を持っていません。現地に協力先があると売れるので、「協力しよう」という話は多いです。
他国の現地企業は「売って終わり」が多いので、サービスまで含めると、競争ができると思いますし「日本の金型がいい」ってなると思っています。
山本 ほかには。
松岡 今の技術を活かして自社商品を作りたいと思います。現在2つありますが、これ以外の商品も作っていきたい。自分で景気の波を打開できる商品が欲しいですね。
また、自社製品を作ると若い人たちの目の色が変わってきます。例えば社員が作りたいと提案して作った精密ジャッキの「EASYG(イージグ)」という商品があるのですが、これが売れると社員が喜びます。それがどんどん増えてくと、若い人がうちに来て一緒にやりたい、こういう商品を作りたいっていう風にならないかなと思っています。そうしたことができるメーカーになりたいですね。
山本 松野さんはどうでしょう。
松野 インドでは金型の修理や改良をメインにしたいと思っています。そのための人材を確保し、育てて、日本品質が分かる人材を現地に送り込みたいと思います。一方で、こうした人材の育成の課題が測定です。当社の外国技術者は10μmの微妙な測定が苦手です。そこができる人が育てられれば、海外で遠隔で対応できるのかなと思います。
金型に関しては、部品を安く作ったり、調達したりして、収益向上につなげたいですね。しかし、価格を下げることはしません。この不毛な叩き合いを防ぎたいです。
また、詳しくは言えませんが、将来はインドのパートナーと協業して、電子部品の供給をできるようになりたいです。メイドインジャパンの電子部品の需要は世界中で非常に高いですから。
山本 日本の金型メーカーが持つ知見をもっとアピールして、物を売るのではなくて価値を売って、日本以外の商圏からお金を入れて、うまく回していく。 コスト削減のためにグローバルで世界最適調達もやっていくことで、日本の金型メーカーさんに残るお金を増やしていくというのが目標ではないでしょうか。 海外市場は皆さんが思っている以上に日本の金型を求めているので、積極的に攻めて欲しいですね。(了)

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