金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

FEBRUARY

08

新聞購読のお申込み

【鳥瞰蟻瞰】エスアイ精工社長・指尾 成俊氏 QCD+「E(Emotion=感情)」

選ばれる企業になるために
経営者の美意識によって
顧客の感性に訴求する

当社は1986年に創業したカーボン素材などの高精度加工を得意とする従業員13人の会社です。主に半導体の製造工程で使用されるカーボン製治具などを手掛けており、半導体や電子部品メーカーなどと取引を続けています。

金型企業とは業種は異なりますが、大手メーカーのサプライヤとして事業を展開しているという点では共通する課題も多いのではないでしょうか。特に「顧客にいかに選ばれる企業となるか」というテーマはどのサプライヤにとっても重要な課題の一つです。

顧客から見るサプライヤは大きく3つのグループに分類されると思います。一つ目は必要な時だけ声がかかるグループ、二つ目は相見積もりによって常に価格や納期を競争させられるグループ、そして三つ目がメーカーにとって無くてはならないグループです。

我々サプライヤからすると、一つ目、二つ目のグループに入ってしまうと正直つらい。できれば三つ目のグループに入りたいところです。では、どうやって入るか。「QCD(品質・コスト・納期)」を向上させることが重要なのは当然なのですが、私はプラスアルファの要素が必要だと考えます。それが「E(Emotion=感情)」です。

「QCD」は機能であって、食事で言うなら「うまい」「安い」「早い」。これさえ満たしていれば、顧客を満足させることはできます。ただ、それだけでは不十分な場合もあります。例えば新規開拓の時、既存サプライヤが「QCD」を満たしていたら、選ばれるためにはそれ以外で勝負しなければいけません。

また、顧客も本当に「QCD」だけで選ぶかというと、そうではありません。同じ「QCD」でも「この会社から買いたい」、「この人と一緒に仕事がしたい」といった情緒的なものが含まれているはずです。こうした顧客の感性こそ私が唱える「E」につながります。

この「E」には担当者の人柄や身だしなみ、梱包の丁寧さや工場のきれいさ、対応のスピード、技術力など様々な要素が関わってきますが、最も大事だと思うのが経営者の美意識です。何が良くて、何が悪いのか。そうした判断は全て経営者の美意識に基づきます。

当社では汚れやすいカーボンの加工現場をきれいに保つために独自の対策を施したり、顧客への迅速なレスポンスを心がけたりしていますが、誰かに言われて取り組んでいるのではありません。全て私や先代のこだわりによるものです。

数年前に導入した3DCADもその一つです。顧客からの要望ではなく、「カーボンの特性を熟知した当社が、設計から提案できれば、顧客の課題解決に大きく貢献できるはずだ」という私の思いで取り組み始めました。現在では開発段階で必ず声がかかるようになり、顧客にとって無くてはならない存在になっていると思います。

重要なのは顧客の要望ではなく、自らの価値観でものごとを決めていくことです。ただし、それには高い美意識が必要です。だれも見向きもしない方向に進んでも未来はないですからね。

美意識を高めるためには、芸術に触れたり、いろんな経営者に会ったりするなど様々な方法があると思います。一つ注意すべきは、それらの何が良いのか、常に真理を追究することです。そうすれば本物を見極める目を養えるはずです。私も常に意識しながら行動しています。

今後、金型企業を取り巻く事業環境は厳しさを増す部分もあると思います。そうした中で、顧客にいかに選ばれる企業となるのか。「美意識による経営」は、その一つの選択肢だと思います。

金型新聞 2021年10月10日

関連記事

伊藤製作所がテクニカルセンタを設立した理由【金型の底力】

順送り金型やプレス加工を手掛ける伊藤製作所は本社近くにテクニカルセンタを設立し、金型部門を集約することで、本社工場などにプレス機械を増設し、需要が高まっているプレス部品の増産体制を整える。さらに、CAEや3D形状測定機、…

金型はワクワクする仕事 山中雅仁氏(日本金型工業会会長)【この人に聞く】

今年6月の日本金型工業会の総会で、3期6年会長を務めた小出悟氏(小出製作所社長)に代わり、新たに会長に就任した山中雅仁氏(ヤマナカゴーキン社長)。「金型づくりはもっとワクワクできる魅力的な仕事のはず。ワクワクするために儲…

「選べる工具40万点、金型メーカーにより便利に使ってほしい」さくさく社長・溝口典宏氏

切削工具販売サイト「さくさく」は4月1日、新たに国内外メーカー約40社の商品約40万点の取り扱いを始めた。1年以内をめどに、それらの商品の性能や価格を比較し選べるようにするなど利便性を高めていく。サイトを運営する、さくさ…

日本発条がササヤマと資本提携する理由【ササヤマ challenge!Next50】

自動車のシートなどを手掛ける日本発条は2015年、ササヤマと資本提携した。日本発条にとって技術連携のパートナーであるササヤマはどんな存在なのか。魅力、期待すること、今後取り組みたいことは。シート生産部の岡井広行氏と安田雅…

この人に聞く
DMG森精機 森 雅彦社長

 金型の大型化ニーズが進んでいる。電気自動車の開発や環境規制により車の軽量化を図るため、大型部品のアルミ化や樹脂化、超高張力鋼板の採用が増加しているからだ。工作機械メーカーの中でも、金型の動向から大型加工機に注力し始めて…

トピックス

AD

AM金型の冷却効率を自動設計で最大化!サイクルタイム短縮・成型品の反り問...

応用技術株式会社が展開する製造業向けデジタル支援サービス「toDIM」は、Additive Manufacturing技術(以下、「AM」)を活用した金型製作において、オ... 続きを読む

関連サイト