金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

22

新聞購読のお申込み

【この人に聞く】トーヨーエイテック 表面処理開発担当役員・山中 敏雄氏「アルミの凝着抑える新被膜 」

トーヨーエイテック(広島県南区、082-252-5212)が今年2月に発表したアルミのプレス金型用DLCコーティング「TOYO Arc‐DLC」。高硬度で強固に密着するため、軟質で融点の低いアルミをプレス加工しても金型に凝着しにくい。マルチマテリアルでアルミの採用が進む自動車のボディや骨格をはじめ、家電や建材など幅広い分野の金型に需要を見込む。開発の狙い、新被膜の特長、そして今後の展開は—。表面処理開発担当役員の山中敏雄氏に聞いた。

車のマルチマテリアルに応える

やまなか・としお
1964年生まれ、広島県出身。87年芝浦工業大学工学部電子工学科卒、マツダ入社。2004年トーヨーエイテック工機管理部生産計画管理課マネージャー、12年執行役員工機製造部長兼品質保証部長、19年執行役員表面処理製造部担当兼表面処理開発担当。

高硬度、強固に密着 

開発の狙いは。

複数の素材を組み合わせるマルチマテリアル。その素材の一つとして注目されているのがアルミだ。欧米、そして日本の自動車でボディや骨格への採用が進む。しかし難点は柔らかく融点が低いこと。プレス加工を繰り返すと金型との摩擦や熱で表面に凝着する。この課題を解決するため、新たに炉をつくり開発した。

その特長は。

大きく4つ。1つ目は「硬度が高い」こと。DLCはダイヤモンドとグラファイトの成分を含む硬質炭素被膜。特殊な製法で水素の含有を少なくし、ダイヤモンドに近い性質にした。それにより極めて高い硬度(50GPa)を実現した。

2つ目は「金型に強固に密着する」こと。照射するイオンを調整し、被膜と金型の界面に混ざり合った分厚い層をつくった。いわば被膜が金型に根を張っているような状態で、衝撃を受けても簡単に剥がれない。

金属と金属が摩擦すると凝着するが、金属とDLCは凝着しない。DLCを被膜処理した金型に凝着するのは、DLCが劣化し剥がれるから。「高硬度」と「高い密着性」。新被膜はこの特長によりハードなプレス加工を数万、数十万と重ねても、その性能を保ち続けて凝着を抑える。

あと2つの特長は。

3つ目は「金型が変形、寸法変化しない」。被膜の高温処理の温度は480度以下。焼き戻しの温度よりも低く、変形や変寸を防げる。4つ目は「除膜できる」。金型を傷つけずに除膜できる独自の方法を開発。これにより何度でも再被膜し金型を使い続けることができる。

今後の展開は。

アルミは自動車を軽量化する素材として採用が広がっている。ボディや骨格に加え、駆動系部品などにも使われており、プレス加工の生産性や品質向上はさらに課題となっていくだろう。

一方、家電や建築部材など様々なものにアルミはかねてから使われている。それらのプレス加工の現場では「金型に凝着する」という固定概念が深く根を下ろしている。新被膜はそうした課題を解決するために開発した。新たに生まれるニーズ、そして潜在するニーズに応えていきたい。

金型新聞 2021年10月10日

関連記事

国内事業を再整備 森久保哲司氏(パンチ工業 社長)【この人に聞く】

パンチ工業(東京都品川区、03・6893・8007)は今年、2025年3月期までの中期経営計画を発表し、最重点施策として「国内事業の再整備」を掲げた。販売拠点の統廃合や、連結子会社の解散などによる経営合理化を図り、特注品…

ユウワ CO2排出量の削減など環境負荷低減

脱炭素社会に向けた金型づくり スマートフォン向け電子部品などの微細精密モールド部品の金型から量産までを手掛けるユウワは、脱炭素社会の実現に向けた金型づくりを進めている。昨年7月から本社工場の全電力を再生可能エネルギー由来…

この人に聞く
パンチ工業 森久保 哲司 社長

ものづくりへの回帰 昨年11月、パンチ工業(東京都品川区、03-6893-8007)の社長に就任した。「ものづくりへの回帰」を掲げ、商品開発や加工技術のレベルアップなどに取り組み、今まで以上にユーザーの要求に応えていく考…

「選べる工具40万点、金型メーカーにより便利に使ってほしい」さくさく社長・溝口典宏氏

切削工具販売サイト「さくさく」は4月1日、新たに国内外メーカー約40社の商品約40万点の取り扱いを始めた。1年以内をめどに、それらの商品の性能や価格を比較し選べるようにするなど利便性を高めていく。サイトを運営する、さくさ…

ものレボ 生産工程など見える化[金型応援隊]

中小製造業ではフレキシブルな対応や生産性向上を図るためのデジタル化が喫緊の課題だ。 2016年創業した『ものレボ』は現場の工程管理、在庫管理、受発注管理、分析などの見える化を図るDXアプリ『ものレボ』を開発し、従来ホワイ…

トピックス

関連サイト