昨秋、日本金型工業会は6年ぶりに改訂した「令和時代の金型産業ビジョン」で、金型メーカーはこれまでのように単に言われたものを作るだけの「工場」から、顧客に価値提供する「企業」への変革が必要だと指摘した。これまで続けてきた…
【この人に聞く】大同特殊鋼 次世代製品開発センター主席部員・井上 幸一郎氏「SKD61相当の粉末材」
ダイカスト金型などでパウダーベッド式の金属3Dプリンタによる金型づくりが広がり始めてきた。背景の一つには、金型に適した材料の進化がある。中でも、これまで金型で広く使われてきたSKD61に相当する材料が登場し始めたことが大きい。今春に販売を開始したSKD61相当材の金属3Dプリンタ用の粉末材「HTCシリーズ」を開発した、大同特殊鋼の井上幸一郎主席部員に開発の背景や素材の特長などについて聞いた。
金属3D造形の用途広がる 硬さ40~45HRC、造形し易く
いのうえ・こういちろう
1966年生まれ、大阪府出身。91年関西大学大学院工学研究科卒、同年大同特殊鋼入社。構造用鋼、工具鋼の研究開発に従事後、2013年工具鋼技術サービス部長、21年から現職。
開発の背景は。
金型で広く使われてきたマルエージング鋼は、造形したままでは35HRC程度の硬さにしかならないため、造形後に割れが生じにくく、造形しやすい利点があった。だが、40HRC以上で使うダイカスト金型には硬度が足りなく、硬くするには時効処理が必要だった。
一方、SKD61相当材の粉末は、造形したままで50HRCを超える硬さが得られる反面、造形が難しかった。この硬さと造形性という、相反する要素をバランスよく両立させた。
具体的な特長は。
硬さは炭素量に比例するので、HTCでは金型に必要な硬さが得られる最低限まで炭素添加量を調整した。これにより、造形したままで40~45HRCが得られ、造形性が改善されたほか、造形後の焼き戻しで50HRCまでの硬さ調整を可能にした。一方で、割れが生じにくいように造形性を改善した。
そのほかの特長は。
熱伝導性の高さだ。HTCはマルエージング鋼よりも2倍、SKD61と比較しても1・5倍を実現した。これによって、得られる効果は大きい。
マルエージング鋼で自由に水冷管を造形した金型では、かじりは減ったものの、水冷管が割れてしまい、型寿命が延びなかった。マルエージング鋼の熱伝導性が低いことで、熱応力の影響を受けたためだ。HTCは熱伝導性が高いので、冷却効果を維持しつつ、型寿命も伸ばせる。
留意する点は。
造形性が良くなったとはいえ、やはり割れには注意が必要だ。割れを減らすには、2つの点に留意する必要がある。
1つは、できるだけ割れの起点となる鋭い角を作らないこと。そして
もう一つは、造形後にショットブラストなどで、造形面を平滑化すること。いずれも、積層面から割れが生じやすいからだ。
今後の課題は。
サイズ拡大への対応は欠かせない。現状150㎜角以上のサイズを造形すると割れが生じやすくなる。あとは価格。材料費に加え、機械チャージも含めたコスト低減が必要だと思う。今の価格では適応領域はまだ狭い。また、機械によって造形条件が異なるので、材料と機械の条件調整は必要になる。素材メーカーとしてできる限り対応していきたい。
金型新聞 2021年11月10日
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