金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

OCTOBER

02

新聞購読のお申込み

現代の名工・三井ハイテック 木下 易之氏に聞く「次世代の匠に必要なもの」

デジタル技術や自動化技術の進化によって金型づくりはここ数年、大きく変化している。これから金型技術者にはどのような技能や能力が求められるのだろうか。それとは逆に、時代を越えても変わらず求められることは何だろうか。高度な研削加工の技能を持ち現代の名工(2018年)にも選ばれた、三井ハイテックの金型製造部で特任技師を務める木下易之氏に聞いた。

きのした・やすゆき
1959年生まれ、大分県出身。78年津久見高校機械科卒、三井工作所(現三井ハイテック)入社。2012年金型事業本部金型事業部金型製造部長、16年同事業部金型技術推進部長、19年同事業部金型生産技術部特任技師。18年「現代の名工」に選ばれる。

技能を技術に昇華する装置開発

ノウハウを数値化、装置に技能者と違わぬ能力

次世代の技術者に必要な力

金型技術者にこれから必要とされる力。それは人の技能をデジタル化(数値化)しそれを活かして金型づくりを効率化する機械を開発する力。そしてその機械に技能者と同様の能力を発揮させる力。この2つの力が必要と感じています。

例えば、高度な研削加工の技能を持つ技能者の手や目の動きや力加減を数値に置き換え、同じ動きをする機械をつくる。加工時の振動や音、温度を測り、それをもとに機械の動きを制御し技能者の能力に近づける。いわばノウハウを機械化する力です。

金型はこれまでにも増して、短い時間で、無駄を減らし、最小限の人員で、高い品質に造ることが求められています。そうした中、いかに人が持つ技能を技術に昇華させ生産効率や品質を高めるか。これが次世代の金型技術者が向き合う課題だと思います。

時代を越えて変わらぬ必要な力

新たな機械や工法を開発し、それによる生産技術を確立することで金型の品質や生産効率を改善する力。これは時代を越えて変わらぬ、金型の技術者に必要な力だと思っています。

先ほど、デジタル化により技能を技術に置き換えることを現代の技術者に必要なことと言いましたが、「新しい機械を生み出し効率や品質を高める」ということは変わらない。それを苦と考えず、楽しみ、好奇心旺盛に探究できることです。

私は金型技術者として40数年、常にそうした「改善につながる新しい方法」を探してきたように思います。「当たり前」や「常識」の殻を破り、品質がもっと安定し、楽(効率化)になる方法はないだろうか、と。

最も印象に残っているのが、モーターコア金型のスロットダイの刃物部を加工する治具を開発したこと。スロットダイの刃物部はモーターコアの大きさなどによって形状が実に様々。そのためモーターコアの種類に応じてそれぞれの治具(百種類以上)が必要でした。

それを4種類の治具で全ての加工に対応できるようにしました。治具の製作、保管、セッティングの作業などが全て要らなくなり、時間とコストを大幅に改善しました。それまでは百種類以上の治具を用意するのが常識でしたから、社内で反響も大きくとても喜ばれました。

必要な力を身につけるには

新しい機械や工法を生み出す基となるのは、手や目、耳など五感による「技能」です。デジタル技術の活用も、優れた技能が無くては成し得ません。金型づくりの基礎といえる五感による技能を磨き、そしていつも柔軟な発想で課題解決を探究することだと思います。

金型新聞 2022年2月10日

関連記事

明星金属が残業時間を減らすために徹底した2つのこと

金型の品質高めトライ減らす 明星金属工業が手掛けるのは、ボンネットやドアなど自動車ボディー部品のプレス金型。トライ&エラーを重ねて品質を高めていくため完成までの時間が予測しにくい。受注は新車開発の時期に集中するな…

高硬度材を切削加工

加速する高硬度直彫り

工程短縮、精度安定に利点  超高張力鋼板やガラス繊維など成形材料が高度化していることから、HRC60を超える焼入れ鋼や超硬材を使うなど金型の高硬度化が進んでいる。こうしたニーズに合わせて、高硬度材料を効率よく高精度に加工…

武林製作所 「マスクのほね」がヒット」

培った技術活かす 自動車の電動化、医療関連や半導体関連需要の拡大などで、国内のものづくり産業に求められるものも大きく変化している。自動車の電動化ではモータやバッテリーなどの電動化部品や材料置換による軽量化部品などが増えて…

【特集】日本の金型業界に必要な4つの課題

問われる自己変革力 連携、デジタル化、事業承継、取引適正化 車の電動化、カーボンニュートラル、デジタルトランスフォーメーション(DX)、SDGs(持続可能な開発目標)—。金型業界を取り巻く環境の変化は加速度を増している。…

〜精度よく、早く、安く・作る〜特集

〜精度よく、早く、安く・作る〜特集

高難度型を早く安く 自動化活用し品質安定  難易度の高い金型や、オンリーワン技術に高い付加価値があるのは当然。しかし、全てがそんな金型ばかりではない。大半の金型は、高精度は当然ながら「早く、安く」作ることが求められている…

トピックス

AD

ファロージャパン 測定の省力化が生み出す新たな価値を提供<AD>

製造工程の中でも「測定」はボトルネックになりやすい工程の一つです。特に測定専任者がいなくて、それぞれの人がさまざまな業務をこなしている企業にとっては、「測定」は、最も時間短縮を実... 続きを読む

AD

ジーエルサイエンス 0.1μmの超薄膜コーティング「InertMask」の適用効果〈AD〉

ジーエルサイエンスでは、離型性が高い超薄膜コーティング「InertMask」の用途開発を行っている。元々、分析技術の精度向上などを目的に開発したコーティングだったが、開発品の評価... 続きを読む

関連サイト