金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

NOVEMBER

21

新聞購読のお申込み

豊田自動織機が金属AMのコスト増を吸収した方法とは

金型や部品の造形で金属AMを活用する際、必ず指摘されるのがコスト。装置の価格はもとより、粉末材料が高価なことに加え、設計や解析などに多くの工数が発生するため、どうしても製造コストは高くなる。一方で、高い冷却効果による生産性向上や、金型の長寿命化など得られるメリットは少なくない。では、金属AMの活用を進める現場では、そのコストをどのようにして吸収しようとしているのか。金属AMを活用しながら、コスト削減に工夫を凝らす企業の取り組みを取材した。

設計自動化や材料削減

コスト削減のために土台部は再利用する

コスト増をほぼ吸収

金属AMで必ず課題に挙げられるコスト。金属AMでカーエアコン用コンプレッサのダイカスト製品と金型部品を製作する豊田自動織機大府工場では、様々な取り組みで、高くなったコストを「ほぼ吸収できている」(コンプレッサ事業部アルミ技術部デジタル企画室佐藤良輔室長)という。寿命向上や材料の削減、生産性向上、設計の自動化などあらゆる手法でコストを切り出してきたからだ。

自由に水管設計したアクリル模型

元々金属AM採用の狙いは、自由な水管によって冷却効果を高め、溶着したアルミを除去する磨き作業を削減すること。型温を溶着、湯まわり、離型剤残りなどを考慮し、130~230℃に設定するなどして、磨きの激減に成功した。

ある部品では9万ショットでも磨きなしを実現。4年前にEOS社の金属AMを導入以来、約650個の部品を製造し、その全てで磨き時間低減効果が得られ、そのうち約8割で磨きなしを実現。昨年度は年間206時間の磨き時間を削減できたという。

こうした効果の一方、「工芸品を作っているわけではない」(佐藤室長)と、採算面の改善にも取り組んできた。今や「型費単独で、従来比2倍前後高くなるコストをほぼ吸収できている」という。

その方法は多岐にわたる。一つは型寿命向上。水冷回路を型表面近くまで寄せるため、割れによる水漏れが発生しやすかったり、管路が細く詰まりが発生したり、当初は寿命が短かった。硬度の最適化や水質の管理をすることで、導入当初の寿命の約3倍まで改善したという。

活用するEOS社の金属AM

2つ目が製造面でのコスト削減だ。同社が使うマルエージング鋼粉末は「キロ当たり単価が従来金型鋼材の数十倍」。このコストを抑えるために考えたのが金属AMでの造形部を少なくすること。「アルミが接する部分だけを造形し、土台部を鋼材で製作し、土台部も再利用するようにした」(写真)。また、機械の型部品あたり償却費を抑えるために、稼働率向上も図る。治具の開発や複数個取りにすることで、「年間約1800時間の稼働時間を確保している」という。

金属AMに置き換える部品の選択も重要になるという。佐藤室長は「冷却に課題があり、寿命が短いもの、もしくは生産性が極端に悪化しているものでないと高い効果は得られない」と話す。

3つ目として、生産性向上によるコスト削減も進めている。その一つが離型剤の塗布量の削減。従来は大量の離型剤を塗布していたが「金属AMの金型は内部冷却の効果が高い」ため、少量の原液の塗布で済む。それでも「成形サイクルが10%向上」し、1個当たりの製品コスト削減につなげていく。

設計工数の削減にも取り組んでいる。金属AMは水管を自由に設計できる一方、設計の自由度が高く、CAEでの型温解析と回路修正を繰り返す必要がある。このため、従来の金型では1時間程度だった冷却穴の設計時間が「1型当たり約30時間必要になるものがある」という。そこで、自動で水管の位置を最適化できるシステムを構築中。「改良の余地はあるが、実際の設計工数は半減し、手動設計では困難な数百回の試行を自動計算できるようになる」。

こうした取り組みの結果、金属AMで制作する部品は増加してきた。現在、同工場で生産するダイカスト部品は年間約3500万個。その1割程度を金属AMが組まれた金型で生産する。佐藤室長は「全て金属AMに置き換わるわけではないが、今やなくてはならない装置。コストも勘案しながら、2割程度まで引き上げたい」とし、さらなる活用領域の拡大を図る考えだ。

豊田自動織機 会社概要

  • 本社:愛知県刈谷市豊田町2-1
  • 代表者:大西朗社長
  • 創業:1926年
  • 従業員:6万6997人
  • 事業内容:繊維機械、産業車両、自動車部品の製造販売。

金型新聞 2022年5月10日

関連記事

多様化するニーズに応えるプレス加工機5選[プレス加工技術最前線]

自動車の電動化に伴い、モータやバッテリーといった電動化部品の加工需要が増加している。また、プレス加工時の状況をリアルタイムに把握して、生産性の向上や品質の安定化につなげる技術を開発する動きも進む。プレス加工機メーカー各社…

金型メーカー座談会
経営者5人が語る、どうなる2015年 最終回

金型産業 発展へ 日本金型工業会 5つの施策   出席者   エムエス製作所社長 迫田 幸博氏 小出製作所社長 小出 悟氏 長津製作所会長 牧野 俊清氏 日進精機相談役 加藤 忠郎氏 野田金型社長 堀口 展男氏 2月号で…

DXの本質は生産性の向上と人材育成 佐藤声喜氏(KMC社長)【特集:利益を生むDX】

多くの製造現場がDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性を認識する一方で、DX導入に苦労している企業や製造現場も少なくない。そうした中、「製造DXソリューションカンパニー」を掲げるKMC(川崎市高津区)は、工作機…

【特集:2023年金型加工技術5大ニュース】4.AM活用の広がり

多様な活用方法や機器の進化 金属AMによる金型づくりが徐々に広がりを見せており、活用事例が増えている。金属AMの活用は、従来の金型づくりに付加価値をつけ、他社との差別化を図るための手段として有効。今後ギガキャストで、金属…

熟練の技生かし金型の修正を減らす方法【変わるトヨタの型づくり】

PART2:匠の技をデジタルに帰す 金型の修正ゼロへ 匠がデジタル技術を駆使すれば金型の修正を減らせないか—。モビリティツーリング部は、そんな取り組みにチャレンジしている。熟練の技を生かし、デジタルの金型モデルでトライと…

トピックス

AD

FARO 樹脂成型品や自動車シートの測定での3次元測定アームの活用と新製品Qua...

樹脂成型品の工程管理・不具合解析 樹脂成型品の工程管理や不具合解析の現場では、実際の製品や試作品と設計図との差異把握や、製品や金型の工程ごとの変化量把握、不具合解析や要因分... 続きを読む

関連サイト