高精度、高性能な放電加工機で金型産業に貢献してきた三菱電機(東京都千代田区、03-3218-2111)。近年は、機械だけでなく、遠隔地からのメンテナンスサービスやAI技術の活用など金型づくりの高度化に対応するサービスや…
元本田技研工業 田岡秀樹氏に聞く【特集:自動車金型の未来】
電動化に3つの方向性
電動化やギガキャストで変わる自動車づくり。元本田技研工業で型技術協会の会長も務めた田岡秀樹氏は「自動車業界はゲームチェンジの局面を迎えており、破壊的なイノベーションが起きている」とみる。一方で「中小企業が持つコア技術が重要になる」と話す同氏に、自動車業界の変化や方向性などを聞いた。
電動化の流れをどうみるか。
22年の自動車販売台数は8160万台で、電気自動車(EV)は520万台と約6%。ある調査では、30年には全体で1・19億台になると言われており、EVは3470万台と予想されている。
この数字は実現するか。
不確定要素が多く、30年に現状の500万台を7倍にするのは正直難しいと思う。電動化は進むが、全ての自動車メーカーが同じ動きをするのでなく、3つの方向に分かれる仮説を立てた。
3つとは。
BMWやテスラなどの「スーパープレミアムブランド」、トヨタに代表される「グローバルプレーヤー」、スズキなどの「グローバルサウスプレーヤー」の3つだ。30年に向け、プレミアムプレーヤーからグローバルプレーヤーの順に電動化は進む。一方、南半球を市場とするサウスグローバルメーカーは独自の商品戦略を展開していくとみる。
なぜこの順で電動化は進むのか。
投資の観点から見て明らか。電池、工場、EVプラットフォームの開発などを考えると、自動車業界全体で50~70兆円の投資が必要になると試算した。この投資に耐えられるのは内部留保が大きいか、販売価格が高く、高収益メーカーしかない。
ギガで変わる生産システム
ギガキャストも破壊的なイノベーションの一つで注目を集めている。
一体化するという考え自体は新しい話ではない。BMWが13年に発売した電動車「ⅰ3」では、客室部と駆動部に分割したモジュール構造を採用するなど一体化の考えが含まれている。今のギガキャストはこの流れに沿っていると思う。
一体化する狙いは。
車づくりのシンプル化と軽量化が目的。従来の車づくりでは、300~400の部品を溶接で組み立て、4000~4500の溶接打点がある。ギガでシンプルな構造になると、溶接を大きく減らせる可能性がある。また、アルミによる軽量化はバッテリーで重くなる電動車では不可欠だ。
ギガでも色々なアプローチがある。
トヨタが発表したリアとセンタとフロントの3分割が興味深い。車一体で鋳造するより3分割のほうが組み立ての作業性が良く、品質も安定する。自動車メーカーにとって、約240工程ある組み立てラインの簡素化は大きな課題。3分割でもラインも大幅に減らせるし、コスト削減効果も大きい。
また、ギガに加え、電動車が自走化したり、デジタルを活用したりしてコストや納期を半減させる「BEVハーフ構想」は生産システムを大きく変える可能性がある。
一気に変わるか。
トヨタは30年に350万台の電動車のうち170万台をBEVハーフで作るとしているが、30年までは先に言った3つの方向で段階的に進むので、一気には変わらない。
その前にもっとできることはある。例えば、複雑な構造部位やインナーパネルの一体成形、差圧外販樹脂パネル、異材接合など、中小企業が持つコア技術をオープンイノベーションで集結させることが重要だ。
金型新聞 2024年1月10日
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