自動車の電動化や軽量化ニーズの高まり、短納期化、熟練作業者の減少など、プレス加工を取り巻く環境は大きく変化している。プレス加工メーカーへの要求も高度化しており、これまで以上に技術革新を進め、変化するニーズに対応することが…
水素エンジン車に生かされる型づくり技術とは?【変わるトヨタの型づくり】
PART3:新たなクルマづくり
若手の挑戦と育成両立



新たなモビリティの一つである、水素エンジン車でも新たなモノづくり技術が生かされている。昨年7月に大分県のオートポリスで行われたスーパー耐久シリーズ。ここに出走したカローラベースの水素エンジン車には、外板パネルに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使われており、それには、モビリティ—ツーリング部の新たな技術が採用されている。
水素エンジン車には水素タンクが必要だが「100㎏程度重くなる」(モビリティーツーリング部新価値創造課の嶋方克好課長)ため、レースで走るには、車体を軽くしなければならない。軽量化の方策として、フードのインナー、アウター、フロントドアインナー、アウターなど外板部品の一部をCFRP化した。
「レース車という一品モノ」(嶋方氏)のため、オートクレープ方式で成形。一般的な型とケミカルウッド型など部品ごとに3種類の型を製作した。嶋方氏は「カーボンではヘミング曲げができないため端末の処理や、ルーフは全周アンダーカットの閉じ断面になるため、成形方法をどうするかなどの課題に直面した。また、成形時の温度による製品寸法の精度変化も苦労した」と振り返る。こうした課題を解決し、水素タンク分の3割程度軽くすることに貢献した。
今回のCFRPはレース用の水素エンジン車への適用だが、すでにプリウスPHVやGRブランド車などの一部の部位で採用されている。量産となると「まだまだサイクルタイムと材料コストが課題」(嶋方氏)というが、マルチマテリアル化の一つとして、CFRPは広がる可能性を秘めている。
また、今回の取り組みが特徴的だったのは「若手の挑戦と育成を両立させた」ことだ。プロジェクトにはあえて、入社3年目までの若手をリーダーとして抜擢。とはいえ、いきなり若手だけでは難しいため、若手と匠をうまく協業してもらうようにした。
まず、選抜したリーダーたちはプロジェクト全体の日程を設定。「自らの部署だけでは全体を俯瞰(ふかん)した日程を組むことは難しい。成形、塗装、組立に強い部署や匠にヒアリングしながら設定してもらった」(嶋方氏)。その後も、自らに足りない知見は匠に聞くなどして、パネルは成形、塗装、組立、サブアセンブリーまで7週間で完成させたという。
他部署と交流仕事の幅広げる
嶋方氏は若手に挑戦させた狙いについて「視野を広げるため」と話す。「若手は自分の仕事で精一杯。これはこれで重要だが、他部署の人と交流すれば仕事の幅が広がり、視野も広がる」。
同社では、こうした交流も育成の重要な手段と考えており、他のプロジェクトでも頻繁に行われているという。「我々の部署は、金型づくりは得意。しかし、成形以降の組付けなどの課題は理解しづらかった。今回、他部署の考えを学ぶことで、車づくりへの理解をより深めることにもつながった」(嶋方氏)。
金型新聞 2022年6月9日
関連記事
PART1:金型メーカーアンケート「次世代に必要な匠の技は?」PART2:「自動化の匠」 アイジーエヴァースPART3:「5軸加工の匠」 エフアンドエムPART4:「金属3Dプリンタの匠」 三光合成PART5:「現代の名…
金型メーカーの新規顧客の開拓方法が変わりつつある。これまでの直接訪問やテレアポといった手法から、インターネットやスマホの普及、コロナ禍で急速に進展した非対面活動の拡大によって、ウエブサイトやSNSなどを使って情報を発信し…
技術者育成、生産性向上に貢献 開発試作プレス部品の金型、プレス、レーザー加工まで一貫して手掛ける八光技研。アナログとデジタルを融合させる解析ソフトの活用術で、育成や大幅な生産性向上に役立てている。 同社はレーザー加工技術…
高張力鋼板(ハイテン材)の増加や、自動車の電動化で必要となるプレス部品の精密化などにより、プレス金型は高度化している。金型はプレス機の精度や剛性に倣ってしまうため、これまで以上に金型とプレス機の両方の知見が重要になってい…


