金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

DECEMBER

03

新聞購読のお申込み

「金属3Dプリンタの匠」三光合成

デジタル技術の進化で、相次いで登場する新技術。次世代の匠はそれらの技術を金型づくりにどのように活かしているのか。また、それら能力を習得するには、どのようなスキルや育成が必要なのか。本特集では、様々ある新技術の中でも、次世代の金型づくりで注目されている「自動化」、「金属3Dプリンタ」、「5軸加工」で、匠の技を持つ金型メーカーにその活用術やノウハウを聞いた。

三光合成「幅広い解析と分析力」

自由な水管配置や高いガス抜き効果など様々な機能を付与できることで、金型づくりにも徐々に採用が広がる金属3Dプリンタ。金属を除去していく切削加工とは異なり、金属を積層していく加工なため、これまでのものづくりに対する考え方や、アプローチの手法とは異なる可能性が高い。では、そこで必要とされる技術や考え方は何か。長年、金属3Dプリンタで金型を作り続けている三光合成の満嶋敏雄専務に、金属3Dプリンタの活用で必要になる「匠の技」について聞いた。

ユーザーに最適な提案する能力 〜分業体制で各分野の人材育成〜

8年前に松浦機械製作所の金属3Dプリンタ「LUMEX」を導入し、350型以上のプラスチック金型を造形してきました。最近では500㎜角の大型サイズの金型も作っています。金属 3Dプリンタの金型づくりで、今後重要になると思う技術や能力は、機械の使い方などに加え、解析技術とその結果に基づいて最適な判断を下し、提案する能力でしょうか。

例えば、金属3Dプリンタの利点として言われる自由に配置できる水管。自由度が高い一方、ワークから最適な距離に配置しなければ、ピンホールや割れが発生する場合があり、水漏れのリスク回避のため、多くの造形結果や失敗から解析を行い、安全率を明確にしました。

ガス抜き効果が得られるポーラス(多孔質)形状を造形できるのも金属3Dプリンタの利点です。昨年、型の表面にポーラス形状を造形し、型の内側を空洞化するという特殊な構造で特許を取得しました(写真)。ガスが固形化せずに、気体のまま排出できるので、高いガス抜き効果が得られ、50万ショットでメンテナンスが不要だった金型もあるほどです。ここでも解析によって最適な位置と構造を決定しました。

他にも、冷却穴の流量を安定化させることも重要です。これまでの経験から、穴径がφ3以下だと、水管を流体研磨し、冷却水による錆を進行させないことで、通常の金型と同じようにメンテナンスできるようになることが分かりました。

いずれの場合でも、解析技術は重要になります。しかも、一つではなく、流動、冷却、反りなど幅広い解析能力が必要です。当社では現在、3人の解析の専任者がいますが、もっと増やそうと考えています。

ユーザーに最適な提案をする能力も重要です。まだ粉末材料が高価で、製造コスト自体も高くなるので、生産性やリスクを総合的に判断し、金属3Dプリンタによる金型が最適かどうかを考えなければなりません。現状では実際のところ、コストや機能を考えると、金属3Dプリンタで作る金型は全体の2割弱程度です。

現在、こうした能力を持つ技術者を育成している最中です。ただ、解析や機械の使い方、メンテナンスを考慮する設計など、金属3Dプリンタによる金型づくりでは、求められる能力は広く深く、一人ですべてを学ぶことは難しいのが実情です。だから、一人に全てを任せるのではなく、分業体制でそれぞれの分野に必要な人材を育成する考えです。

金属3Dプリンタによる金型づくりでは、様々な技術やノウハウが必要だと話してきましたが、作っているものは金型です。だから、金型の機能や構造を熟知することはこれからも変わらず重要だと思います。

金型新聞 2022年2月10日

関連記事

金型取引改善分科会会長 渡辺隆範氏に聞く 金型業界で足並みそろえ、値上げを実現【特集:どうする値上げ】

業界の弱体化は顧客にマイナス ユーザーと金型メーカーはどちらかが欠けても成り立たない「イコールパートナー」だと訴えてきました。我々の事業を安定させるためにも、値上げは粘り強く要求していくべきで、そのためには足並みをそろえ…

自動車の電動化想定し、大型で複雑・高精度なプレス技術を開発[プレス加工技術最前線]

自動車の電動化や軽量化ニーズの高まり、短納期化、熟練作業者の減少など、プレス加工を取り巻く環境は大きく変化している。プレス加工メーカーへの要求も高度化しており、これまで以上に技術革新を進め、変化するニーズに対応することが…

電動車で変わるプレス機械のニーズ 高精度、大型化が加速する[プレス加工技術最前線]

高張力鋼板(ハイテン材)の増加や、自動車の電動化で必要となるプレス部品の精密化などにより、プレス金型は高度化している。金型はプレス機の精度や剛性に倣ってしまうため、これまで以上に金型とプレス機の両方の知見が重要になってい…

【特集:技能レス5大テーマ】1.加工プログラムの効率化

AIで自動作成 金型の加工プログラム作成は、熟練技能者の経験や知識に依存するケースが多い。金型づくりにおける長年の経験に基づくノウハウが必要とされる。しかしそれをAI(人工知能)で効率化し、経験の浅い技術者が経験者並みの…

【特集:2023年金型加工技術5大ニュース】1.ギガキャスト

一体鋳造の流れ加速 「ギガキャスト」は今年最も注目を浴びたワードの一つ。定義は明確に決まっていないが、6000tを超える型締め力(1万6000tも発表されている)のダイカストマシンで複数の部品を一体成形する技術だ。 トヨ…

トピックス

関連サイト