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【座談会】金型メーカー・自動車メーカーが語る
次世代自動車の登場で金型づくりはどう変わるのか
ー2030年の金型業界ー 第2部

〝知能〟と〝智能〟を区別

金型メーカーなりの自動化

  前号では、「次世代自動車の登場で金型がどう変わるか―2030年の金型業界―」について、現状の課題や見通し、考え方などいろいろな意見が出された。2回目の今月号は、そうした変化に対し、各社がどのよう対応しているか」について語ってもらった。さらに後半では、働き方改革がいわれているなか「いかにして人をやる気にさせるか」、「どう育てていくか」など人づくりの取り組みや考え方について議論してもらった。
「アルミや樹脂による軽量化」、「量産を意識した型づくり」、「圧倒的な短納期」などいろんなキーワードが出ました。こうした課題に対し、どう取り組んでいくかを教えてください。

 小出  金型は量産の道具であるという考えでいくと、行き着くところは量産までやることになります。海外では兼業の金型メーカーがほとんどなので、今後は、自分たちで量産も含めて金型をつくっていくという方向で事業展開していくつもりです。要はダイカスターになるということですね。

どこで成形しますか。

 小出  インドです。すでに国内では洗練された量産技術を皆さん持っているので、新しく参入しても、とてもじゃないですけど勝てない。ならば、インドのように自分たちの未熟な量産技術でも売ることのできるところに行って、勉強しながらお金の回収ができるとの考えで進出しました。

坂西さんはどういう戦略を描いているのでしょうか。

 坂西  自動車の電動化に向けモータというのは、今までの家電や情報機器とは違う性能が求められます。例えば、航続距離を伸ばすための高効率モータだとか。これをどうつくるかがポイントになります。そのためには先ほども話しましたが、金型を核としたシステム技術になってきます。

平林巧造社長

CFPの高度化に取り組んでいると語る平林社長

一社では難しい。

 坂西  そうです。モータだけでなく、ユニット化のニーズが出てきたときに、どこかと組んでつくり込んでいく必要があります。いろんな意味で協業化が進んでいくし、進まないと仕事を確保できないということにもなるはずです。それを早く志向した企業が生き残っていくのではないでしょうか。

平林さんはいかがでしょうか。

 平林  次世代自動車に関わる機能部品が高品質かつ低コスト化という要求がさらに高くなってくると、従来型の冷間鍛造に順送プレスを加えた「CFP(冷間鍛造順送)」という独自の技術だけでは、その要求に応えることが難しくなります。そこで「CFP(コンビネーションフォージングプログレッシブ)」という新しい加工法のステージにシフトし、CFPの高度化に取り組んでいます。

具体的には。

 平林  例えば単なる鍛造と順送だけではなくて、高品質を維持するために、順送の中にエアパージのような工程を入れて、圧痕、打痕を出さないような高品質な製品の実現やインラインに測定工程を追加し安定製品の量産化を実現する順送システムなどです。後、別の取り組みとしてさきほどお話した減速機です。減速機を設計し、当社の強みである「CFP技術」でプレス化を実現する。コスト競争力のあるモジュールを製造して川上から川下のプロセスを全て網羅することで、自社製品を提供できるようにしていきます。ただ、坂西さんが言われたように、減速機だけではお客さんは使えません。減速機を活かすにはモータが必要で、システム全体の最適化までを提供しないと今後のビジネスは難しいです。だから企業連携というのが必要だと考えています。

 小出  減速機にたどり着いたのは、金型技術があったからこそですか。

 平林  エンジンから電池に変わるというなかで、部品点数が3分の1になると言うのを聞いて、エンジンやトランスミッション関連の部品をやっている自分たちは、そういうものがなくなれば何で生き残っていくかというのを議論しました。

 小出  答えが減速機だったんですね。

 平林  そうですね。EVではモータが必要となり、さらに小型化すれば減速機のニーズが出てくるということです。減速機の歯車は機械加工が多かったので、それを当社の金型・プレス技術で競争力の高い製品が生み出せるのではないかというところからスタートしました。ただ、歯車成形だけだと、競合が出てきた時に競争になってしまうので、歯車の設計から自分たちでやろうと、大学と連携してオリジナルの歯型曲線というのを開発し、特許を取りました。まだスタートしたばかりで花咲くまでに時間はかかりますが、注力して取り組んでいます。

 田岡  リーダーが変化を予測し危機感を持って従業員の方々と話し合い、自分たちの技術を活かして新しい技術を生み出す。さらにオリジナル商品化するということで、非常に良い例だと思います。

 平林  次のステップは、どうやって連携できるかだと思います。自分たちだけでやるのはパワーもスピードも足りないですから。

適切な連携先を探していくというのはこれからですか。

 平林  そうですね。まずは自分たちの減速機が、他社とどう差別化を図っていくかをリサーチしないといけません。

何年後には減速機メーカーになっているということも考えられるのでしょうか。

 平林  そういう可能性はあります。だからといって金型・プレス技術の高度化を止めることはありません。減速機をつくるための基盤技術は金型・プレスであって、そこが私たちの強みになるのですから。

 田岡  なるほど。環境変化に順応することを恐れないことが重要だと思いますね。それは長谷川さんのところも同じでしょう。アルミ化という変化に対し、技術を強化し、フォード社などの顧客には不可欠な存在になったわけですから。

では、長谷川さんは今後の方向性をどうお考えですか。

 長谷川  これまで申し上げてきたように、やはりアルミ成形用のプレス技術の強化ですね。先にも言ったように大きいものだとスプリングバックが20㎜も発生するので、既に全工程でシミュレーションするなどノウハウをさらに高めていきます。アルミに関する金型なら何でも対応する方向でいきたいですし、プレス成形で対応できるものなら挑戦していきたいですね。

さて、人不足が叫ばれるなかで、自動化も不可欠になってきています。皆さん何か取り組みをしていますか。

 小出  将来的には無人化・自動化を進めた金型つくりが不可欠だと思っています。息子が入社したのに合わせて、彼を中心にロボットなどによる自動化をやり始めたところです。感じたのが、金型メーカーでなければ金型づくりに必要なロボットやその活用は発想できないということ。だから、いずれは金型向けの無人化システムなど別のビジネスにすることも可能だと思います。

坂西伸一社長

協業先とIoTの効果を測っている最中と坂西顧問

坂西さんは、日本金型産業の社長も兼務され、そこではIoTを活用した自動化提案なども始めています。

 坂西  樹脂やダイカスト型などでのIoTの活用による生産性向上を提案しています。まずは、協業先とその効果を測っているところです。

具体的には。

 坂西  まずは、マシニングセンタや放電加工機などの電力監視をして、機械の稼働状況を把握します。それだけでも十分に効果がありますが、クラウドを使って分析するなどローコストで運用しようと考えています。そして次は成形機です。成形条件などを機械から情報を取り入れてフィードバックして、生産に活かそうと考えています。

IoTは金型づくりでも活かせますか。

 坂西  人不足のなかで、ロボット活用も効果的ですが、人を介在せずに生産性上げるのは、IoT技術は間違いなく寄与すると思います。経営がみやすくなる条件づくりは早くすべきだと思います。人工知能(AI)も出てきていますが、まだ先なので、まずは人が関与しながら見える化を進め、生産性を上げるためにIoTは必要です。

 小出  そうですね。これまでは「早く削れる」「正確に削れる」といったことを追求してきましたが、それだけではダメ。「工場をどうすれば24時間安全に稼働させられるか」ということ自体が金型メーカーのノウハウになってくると思います。

 平林  ロボットや、IoTなどによる生産効率化は必要だと思いますし、一部の生産ラインにはすでにロボットを導入しています。最近では間接部門で、重複する作業などの効率化を図るためにICTを活用しています。ただ、何でもロボットや自動化というのは違う気もしますし、人がすべきところには人が必要で、共存共栄が必要でしょう。自分なりには人工「知能」と「智能」と2つあると思っています。AIが増えていく部分もあるでしょうが、感性のものは人によるイノベーションしかないと思っています。その両輪が必要だと思っています。

 長谷川  うちの金型は大きさもあって、自動化はなかなか進んでいないです。そんななか、今取り組んでいるのはパネルの測定の自動化です。ロボットにカメラを持たせ、大きいパネルを数十枚と測定しようとしています。また、金型も削る前と削った後も測定しています。どこでトラブルや事故があっても再生できるようにしなければいけないですから、面のデータは測定していますし、お客さんに最終の面データも渡しています。

小出悟社長

国内を強化しつつ、海外の人材確保が課題と小出社長

人不足もそうですが、人の育成は普遍的な課題です。それについていろいろお聞きしたいと思います。まず、オギハラは北米、アジア、日本と様々な国で事業展開されていますよね。

 長谷川  そうですね。自社工場だけでなく、お客様や子会社への出向も含め、世界中に人を出しています。

 小出  そうした人材は社内にいたのでしょうか。それとも育成したのでしょうか。人不足と人を育てる余裕が無いという両面で困っています。

 長谷川  うちも困っていますが、子会社に出向させることを一つのやり方にしています。言葉ができないことには技術的なネゴもできない。だから、技術不足の若い人でも積極的に外に出しています。昨年入社の若手も「掃除でもいいから経験してこい」と海外に送り出しました。

 小出  当社も海外に人材を出したいですが、出せる余裕がない。国内が弱くなると総崩れになってしまう懸念もある。まずは国内を強化しようと思っています。

小出さんところの海外工場の体制は。

 小出  韓国90人、中国16人、インド34人、日本は90人です。日本人がいるのはインドに2人だけです。

 田岡  でもグローバルオペレーションをしているわけですよね。言葉はどうしていますか。

 小出  「日系企業なので日本語を使おう」と言っていますが、コミュニケーションは英語です。とはいえ、言葉の問題は大きい。英語なら何とかなりますが、中国など聞きなれない言語だと難しく、通訳を置いています。

通訳だと問題もありませんか。

 小出  長年の経験で分かったこともあります。それは2人以上通訳を置くことです。言い方は悪いですが、一人だと嘘をつくこともあるし、都合の悪いことは言わない。2人置くとお互いが意識するのか二人とも正しいことを言います。

ほかに海外で学んだことありますか。

 小出  日本人が絶対必要というわけではないということです。インドに「行きたくない」という雰囲気を持つ人を行かせたことがあるのですが、マイナス思考の人を行かせると負のオーラといいますか、現地もそういう雰囲気になるんですね。これじゃだめだと思い、帰国させました。すると意外なことに、インドの結束が固まり、うまく回りだしたんです。一方、海外のオペレーションは難しい反面、成長もできます。インドに行かせた別の人間はマネジメント能力が凄く高くなった。私と同じ感性の話ができるのはその彼だけですね。

オギハラや小出製作所は海外もありますが、大半の金型メーカーは国内企業。平林さんどう育成していますか。

 平林  国内での育成が原則ですね。今いる人材をどう育てるかです。例えば減速機はVT研究所という部署が中心なのですが、そこにいる若手を抜擢して、歯車を研究している教授のところで学んでいただきました。産学連携の育成ですね。その彼の下にまた若手をつけて、徐々に人を育てていくというやり方です。

 田岡  海外はどうですか。

 平林  拠点は国内しかないですが、国内が大きく伸びることがないので、海外需要を国内に取り込む必要があると思ってます。ドイツに絞って販路開拓をしています。

長谷川和夫社長

レベルアップのために人材育成課を設けたと長谷川社長

どういう方法でしていますか。

 平林  私も海外経験があるので、主に私がやっていますが、ドイツではドイツ語で対応したいというお客さんも多い。そこで、今年8月、英語、日本語が話せるドイツ人を採用しました。海外人材をリクルートするノウハウも無いし、紹介会社は高額だし、当社に合致するかどうかも未知の部分も多い。だから知り合いの英会話教室の社長に「適切な人がいないか」とお願いしました。すると人材も豊富に知っていますし、その英会話教室で人材派遣が新たな事業の一つにもなり得ると快く協力してくれました。

お金をかけない方法もあるんですね。技術の育成はどうですか。

 平林  基本はOJTですね。後は、先代が塾長を務める「ものづくり未来塾」を開き、年配社員が若手に教えるきっかけを作っています。強制ではなくスキルを高めたい人には自由に参加してもらっています。また、今年4月からは「闘今タイム」を設けました。

それはどういう取り組みですか。

 平林  「闘今」と字を充てているのですが、毎月10時間は上司の許可なく、自らのスキルを高める時間を設けてもいいという制度です。1年で120時間になりますので、「120時間闘えますか」というサブテーマもつけました。120時間後の成長している姿を示して役員がOKを出せば、土日でも、会社に来てスキルアップをしてもらえればいい。当然時間外手当も出します。

 田岡  業務時間外で自分の能力を上げるのなら、お金も出すよということですね。

 平林  そうです。残業を是正している働き方改革とは逆行しているかもしれません。しかし、価値あるものにお金を使うことで人材は伸びると思います。中小企業は人材が最も大切だし、多少なりとも生活費の足しにもなりますし、目的を持った残業代ならそれが会社にとっては価値です。

きっかけはあったのですか。

 平林  働き方改革でタイムマネジメントを強化したら、働き方が窮屈になった側面もあって、一部からどうにかならないかという意見が出たんです。だから、やる気のある人材を救うためにはどうすればいいかと考えたのです。

どの程度賛同しているんですか。

 平林  全員使ってくれてもいいのですが、全社員の2割くらいですかね。

 田岡  2割で十分じゃないですか。企業は全員そういう人でもうまく回りません。

 平林  いわゆる尖った社員が2割いると考えたほうがいいのかもしれないですね。

 小出  対象は業務に関することですか。

 平林  そうですね。例えば英会話教室に通うことだけでは該当しません。でも、英語の帳票が増えてくるので、帳票を英語化させたいということなら合致します。

 小出  総務などの部門でも活用できますね。

坂西さんのところの教育はどうですか?

 坂西  長谷川社長は「まず語学」と言われましたが、うちではそうとも言い切れないのです。

どうしてですか。

 坂西  最近では、海外のスタンピングメーカーとコラボすることが基本線としてあります。彼らが完成車メーカーに営業をしてくれるので、語学力がそこまで必要でなく、スタンパーと意思疎通できればいいわけです。そうすると育成は必ずしも語学優先ではないです。メールでのやり取りや電話会議で意思を伝えるということも必要ですが。

田岡秀樹社長

各々の取り組みに自信をもって進めてほしいと田岡技術主事

では何が重要ですか。

 坂西  ポイントは技術です。そうしたスタンパーとの付き合いのなかで、先端技術のやり取りが必要になってきているわけです。開発についての教育は、大学などとコラボしながら、強化する必要がある。とはいえ、基本はOJTです。問題が起きた時に日本から飛んで行って対応するなど、そうした活動のなかで育ってもらうしかない。ただ、一人ではなく、チームで参画させながら技術力を高めていくという形で進めています。技術の進化は早いので、現場の流れのなかで学んでもらうしかないですね。

黒田精工では汎用機なども教える技術道場も持っていますよね。

 坂西  技能的な部分は道場も活用していますし、人材育成マネジメントシステムや人材マップをつくっています。技能検定も含め、どこにどんな技術を持った人がいるかはリアルタイムに把握する仕組みがあります。その技術者たちの技能を高めるために、道場を使いながら、上司と相談しつつ目標管理を組み入れて対応しています。

長谷川さんは育成についてどう取り組んでいますか。

 長谷川  当社も今春に人材育成課を設けました。KPI(重要業績評価指標)を設定し、人材育成課でつくった平均20時間のカリキュラムを、社員全員が講義を受けることにしています。講師は現場の職長にお願いしたり、輸出業務に長けた人間に基本的な制度などを教えてもらったりしています。目的としては、平均的にレベル上げるためです。

語学教育は。

 長谷川  もちろん語学もやっています。TOEICの受験手当は当然、600点以上取れれば別途手当も出しています。何しろ、言葉ができないと何もできないですから。言葉以外では、昨年の新入社員20人は全員を現場に入れました。「金型がどうあるべきか」を学んでもらうためです。CADを使うのはそう難しいものじゃない。それより金型を知ってもらうことのほうが重要です。

最後に田岡さんに本日の感想を。

 田岡  もう皆さんは分かっていらっしゃるし、次世代自動車への変化に対して、人の教育、量産への対応なども的確に進められていますよね。先にも言ったように、今後は「型屋ができるって言わなければならない」ことがますます増えていきます。ですから、それぞれの今の取り組みを、自信を持って進めていただければいいと思います。

本日はお忙しいところありがとうございました。

金型新聞 平成30年(2018年)2月10日号

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