EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…
【特集】金型メーカー新春座談会(第1部) 5氏が語る〜地平拓く人材〜
経営支える中核人材を
金型メーカーを取材すると必ずと言っていいほど話題になるのが人材育成の苦労や確保の難しさ。少子高齢化に伴う人材不足に加え、金型づくりで求められる人材像が変わってきていることも大きな理由だ。そこで、今年の新春座談会では「人材」をテーマとし、「今後の金型業界にとって必要な人材」について議論してもらった。経営者側からの見方だけでなく、現場でマネジメントを担当する「中核的人材」にも参加頂いた。モデレータには日本工業大学の小田恭市教授を招き、それぞれの立場から多様な視点で語ってもらった。
顧客の要求レベルに柔軟に
ー今回の座談会のテーマは「金型業界に必要な人材とその育成」です。人材といっても幅が広すぎるので、まずモデレータの小田先生に、金型業界ひいては中小企業に求められる人材像を総括して頂いてから議論に入りたいと思います。
小田 金型に限らず日本の多くの中小企業では、お客さんの求める仕様にいかに応えるかという工場長的な仕事を社長がしているのが当たり前でした。今後はそれではだめで、経営環境の変化に自らがどう意思決定し、動くかというマネジメントが強く求められるわけです。社長は工場長から、本当の経営者に変わる必要がある。つまり「新たなタイプの経営者」が求められている。これが一つ目です。
もう一つ必要な人材は、工場長的に技術を理解出来て、営業、マネジメントもできる「中核的人材」です。社長が工場長的役割から本来の社長へ移行するには、現場をマネジメントできる「中核的人材」が不可欠となります。また、顧客ニーズも技術も高度化する中、金型だけの部分的な最適解を追うだけではなく、成形製品までの全体的最適解のようなものが求められるわけです。
今回はこの全体的最適解を考えられる「中核的人材」を中心に議論していきたいと思います。まず、人材育成だけでなく、経営環境の変化が厳しい時代にどのようなことを心掛けて社長として経営しているのか、お考えを話してもらえますか。
小出 これからの金型経営は社会環境がガラッと変わってきているので、これまでのままでは立ち行かなくなると思っています。鉄を削って金型を作るだけではなく、お客様にどんな価値やサービスを提供するのかを模索していかなければいけない。
一方、バランスも必要です。例えば、お客様が求める品質にもランクがあります。最高クラスを求めるお客様に最低ランクのものを届ければ即取引停止です。だけど、それなりの金型を求めるお客様に最高の金型を提供すれば、原価割れが発生しかねない。このお客様はどういうレベルのものを提供すればいいのかをきちんと理解する集団でなければならない。経営者だけでなく、従業員全てが理解する必要がある。そのために改めて「金型は生産のための道具」という概念を教え込まなければいけないと思います。
小田 山岡社長は就任されて3年半とのことですが、どういうことを心掛けておられますか。
山岡 当社は教育に注力しているのですが、「ものは人が作る」、「会社は箱にしか過ぎず、中にいる人間がすべて」と常々考えています。今のキーワードの人手不足や省人化に対しても、人で応えていきたい。ロボットを動かすにもプログラムは人が作るし、長寿命の金型を作るにしても人間の知恵や技がいる。人材採用と育成が当社の柱で、父親の方針でもあるのですが、私も感銘しており、受け継いでいきたいと思っています。
自らの役割として心がけているのは、会社の良い環境を作る「環境屋」、仕組みを作る「仕組み屋」、それと「営業開発屋」の三つです。明日の仕事を今日取りに行っているようではだめだと思うので、次の時代に何が来るのかをアンテナを高く張って探したいと思っています。
小田 マネジメント人材を目指す技術者出身の二人には、会社方針でなくても結構ですので、自らの経験を通じて、課題や感じることを教えてください。
小川 現場を離れてから特に感じるのですが、現場にいた時は社内のことだけで満足していた気がします。顧客の要求を理解しようとせずに、金型を簡単に作るという考えが先に立っていたように思います。最近は営業や顧客との面談を通じ、金型を簡単に作っても意味がないことも痛感していますね。
当社は微細精密が強みですが、それを追求することだけでお客様に喜んでもらえるわけではない。お客様の要求にプラスアルファの価値をどう提供するか。それを現場のメンバーにどう伝えていくのかが今の課題ですね。
小田 小川さんは後継者の右腕というか、番頭のような存在を目指すと宣言しておられますね。
小川 社長からもそう言われていますし、私自身もそうしたポジションの仕事のほうが魅力を感じています。会社がどういう方向に進むかなど、一緒に作っていくほうが楽しいです。
小田 井越さんは日本工業大学でMOTを取得されています。どのような効果がありましたか。
井越 経営目線というか、財務や原価管理、どうやって利益を出すべきか、どうして付加価値を生み出すかなどの見方ができるようになったと思います。
今の課題としては、人の育成ですね。当社特有の問題ですが、40代が少なく、我々の50代が多いのです。10年経てば我々が抜けてしまうので、今の間にどれだけ人を育てていけるか。採用も、5年ほど前から若い人を入れ始めていますが、中々思うようにいかないですね。
小田 さて、皆様のそれぞれのお話から浮かんでくるのは結局、人をどう育成し、確保するかということです。まずは、教育に注力している山岡製作所の育成制度を教えてください。
組織に応じた教育制度
山岡 職能や教育システムなどかなり細かく作り込んでいます。例えば職能資格等級制ですが高卒の新入社員が1級、部長は9級となり、それぞれの級に号俸もあります。大学カリキュラムのような座学メインの社内講習もあり、150科目ぐらい用意しています。「原価管理の基本」、「図面の読み方」、「工作機械一般知識」、「エクセル初級中級上級」などです。好きなものを受けることも可能ですし、昇格試験との連動もあり、受験資格を得るには等級に応じた一定の単位を保有していなければならない、といった仕組みになっています。
小出 すごいですね。従業員規模ってどのくらいですか。
山岡 200人弱です。でも制度を作り込んだ弊害もあるんです。例えば課長や係長を任せたい人材がいても、本人の資格等級が昇進条件に追い付いていない、といった実情と制度のミスマッチが生じることがあります。人材が限られる中小企業においては状況に応じた柔軟さも必要だと感じています。
小出 教育制度は自らの立場や環境も考えてなきゃいけないですよね。50人の会社の教育システムは、100人以上の規模には通用しない。静岡と鹿児島の製造業を取り巻く環境は全く違う。借りてきた素敵な服(他社の好例など)でも自分に合わなければは脱ぎ捨てるしかない。従業員も経営者も心新たにしていくしかない。
山岡 そうですね。規模や会社に合ったやり方はありますね。当社はあらゆる世代の社員がいまして、父と私の間にもう一、二世代あり、役員や部長は全員が年上で、伝え方に気を使う部分もありますが、強引な世代交代をしようとは思わないし、してはいけないと思っています。かつて役員や部長クラスが固定化して組織のマンネリ化を招くことがあり、私の世代を無理に引き上げると、10年後20年後に同じことが起きかねない。将来を見据えながら組織を考えていますね。
小田 小出社長が育成で心がけていることを教えてください。
小出 今は出来るだけ任せるようにしています。私の鶴の一声で決まるようなことがあったとしてもそれでは将来は難しい。ナンバー2や3には、いいも悪いも自分で考えて答えを出してもらうようにしています。
小田 ナンバー2、3はどんな人ですか。
小出 部長2人ですね。営業や総務、品質管理的な部分を担当する一人と、ものづくりの担当者がもう一人です。
小田 この二人はどうして育ったんでしょうか。
任せて、考え、実行させる
小出 一人はインドを立ち上げた時に送り込みました。苦労もあったと思いますが、会社を作ることはこういうことだと学んだと思います。ゼロから立ち上げ、利益を出すという経験は大きい。人材面育成でも、かなり激しい労働争議も経験したので、日本とインドのマネジメントの違いなど体感的に覚えていると思います。とはいえ、では日本人のマネジメントを完璧にできるのかというと難しさもある。これからも悩むと思います。
小田 もう一人は。
小出 商社やコンピュータエンジニアを経て36歳で入社した私の縁戚です。総務とか営業は強いけれど、技術的な深い部分まで理解しているとはいいがたい。そこをインドで経験した人と補え合えればと思っています。毛色の違う二人で進めて欲しいですね。
小田 幹部社員ということに関して言えば、山岡さんは若くして社長になられたわけですが、意思決定をなさる時に、助言なども含め頼れる幹部はいますか。
山岡 そうした中核的な人材はいます。部長クラスが6人いまして、年上とはいえ将来展望を真剣に議論できるメンバーもいますし、僕の世代が課長になりはじめているので、彼らとお酒を飲みながら、話し込んだりしています。
小田 6人の部長とコミュニケーションする時、社長は聞き役ですか、それとも旗振り役ですか。
山岡 「あれをやって欲しい」と方針を伝えています。中長期にはこんなことやりたいねという話はするのですが、短期では「今年はこれがしたい」など具体的な数字や目標を出し、月1で経営会議を行い、現場の課長らも交えて定期的に追いかけています。
小田 ちなみに、6人の部長はそのシステムの中で育ったのですか。
山岡 残念ながらそれだけとは言えません(笑)。結局はハートの部分が大きいですね。色々知識を伝えても、経験や気持ちの部分が育ってないと難しい。結局、本人の素質と考え方が大きいだろうなと思います。
小田 とはいえ部長のような立場の人の育成は重要ですよね。
山岡 実はそれが一番の課題だと考えています。次の部長を担う課長クラスの経験不足が否めず、彼らに成長してもらうにはどうすればいいか常に考えています。
小田 指示していたりすることはありますか。
山岡 金型メーカーはプロダクトアウトの発想になりがちで、いいものを作りすぎたがゆえにコスト高になることもある。だから、本当にその公差や加工が必要なのかなど、マーケットインの考え方が必要だと言っています。その一つとして原価の2割削減活動を展開しています。厳しい目標ですが、そこまで求めてはじめて、アイデアが出てくる。後は、「ピラミッド的なものづくりからの脱却」ですね。上から下ではなく、チーム単位でもの作りを行い、明日はまた別のプロジェクトに参加という風に、個人が動き回れる仕組みです。目的は現場も、お客様と一対一で向き合って対応できるようにすることです。
小田 井越さんと小川さんは、小出さんや山岡さんところの幹部と同じく、会社や経営者を支える中核的人材です。経営者は中期的な戦略を練ったり、動いたりしなくてはならない。つまり、社長がいなくても会社が回るようにしなければいけない。そのためにどんなことに取り組んだり、考えていたりしますか。
小川 減ってはいますが、現状は社長が営業も現場もやって、社内の教育もしています。社長自身はスーパーマン的な人なので、全く同じことをするのは難しい。だから、それを二人か三人で分担しようと取り組んでいます。その柱の一つに自分はならなくてはならない。今は営業的な案件や、顧客との打合せなどのほか、年間の売り上げ目標に対してどう進めていくかなど、経営的な視点や思考を教育してもらっている感じですね。
小田 具体的な教育制度はあるのですか。
外部の刺激が意識変える
小川 月1回、社外研修も受けさせてもらっています。技術経営教育のようなもので、経営や管理者として必要な要素など人間的な教育を受けています。自分は成長している実感はないのですが、社長からはいい方向に変わってきたと評価してもらっています。
小田 いい方向とは。
小川 視野が狭いと言われることが多く、こうしなきゃならないという固定概念にとらわれがちだったように思いますが、外に出ることで視野が広がった感じがあります。
小田 外とは。
小川 今日の座談会や、外部教育、日本金型工業会の活動などです。他社の人から「どんなことを考えたり、取り組んだりしているのか」など聞く機会が増えました。そうして感じたのが、誰もが課題や不満があるし、自分だけ愚痴など言っていても仕方がないということ。自らが変えていかなくてはならないという当事者意識が強くなりました。当社は百年企業を掲げているのですが、人がいないと百年は続かない。生涯働ける会社づくりを自分たちが主体的にやらなくてはいけないと思うようになりました。
小田 将来的には現社長の息子さんと小川さんの2人体制ですか。
社長を支える人材を
小川 3人体制ですね。息子の大場総一郎が経営者で営業も兼ねて、私は社内全体のマネジメントやお客さんとの対応をします。開発力が高く、新しいものを作り上げていくのに長けた人がいるので、3人で柱を立ててやっていこうと社長から言われています。
小田 営業や技術で社長の活動分野を固定しすぎると組織として硬直することもあります。次期社長は営業もしながら、技術や開発もある程度学ぶ必要があると思います。
小川 そうですね。社長は加工をマスターするまで行かなくてもいいと思うんですが、それぞれの本質の部分を身につけて行く必要はあると思う。3人の主業務がそれぞれあって、2割から4割ぐらい重なる部分があって、補完し合えればいいと思っています。
小田 井越さんはどうですか。
井越 私も小田先生がいう中核的人材になっていかなくてはならないと思うのですが、今の自分のポストを譲るのが難しい。まず渡さないと自分がフリーになれないですし、そこが悩みですね。これまでの会社の仕組みなどを考えると、すぐに誰かに譲るというのは難しい。私の直接の部下となると、現場のリーダークラスになるので、マネジメント的な目線が少ないのではないかと思う。
小田 では、お客さんに訪問して、構造設計や価格といった総合的な提案はどうしているのでしょうか。
井越 ある程度できる人もいるのですが、今は営業にサポートが必要な際には我々や設計の人間が一緒に行っています。とはいえ、現場では、新しい案件が来た時に、「これいくらで受けたのか」とか、「これでいいのか」という議論は出てきています。そういうところで、現場のリーダーは原価意識も出てくるようになってきたと思います。自由にやらせてもらっている中でそうした危機感が出てきているのはいいことかなと。
小田 けれど、今後は社長を支える井越さんのような人材がより必要になってきますよね。井越さんが意識としてやっていることはありますか。
井越 社長も注目してくれているのですが、技術集団のようなチームを作りました。
小田 どういうチームでしょうか。
井越 プログラムで加工機を動かせる時代になった今、簡単にものづくりはできてしまいます。しかし、こうした状況はものづくりに弊害ももたらしています。どういうことかと言うと、原理原則を理解していないがゆえに、後輩や部下に教えられない。新しいものが来た時に考えられる人間が少ない。これではいけないということで、情報や技術をいったん集約して、考え、伝える技術集団のようなチームを作りました。教育をどうしていくかもそのチームが中心にして進めているところです。社内のあこがれられるチームにしていきたいですし、そうすれば技能が継承されていくと思っています。
金型新聞2019年1月10日号
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