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【特集】金型企業年金新制度へ 3氏に聞く、新制度の背景とメリット〜「経営」と「社員の人生」支える仕組み〜

掛け金率選択制に

税控除など利点大きく

社員の第2の人生豊かに

日本金型工業厚生年金基金は昨年11月2日、いったん解散し「日本金型工業企業年金基金」として生まれ変わった。高い予定利率などの旧制度の課題を解決するとともに、持続可能な運用や掛け金率も8つから選択できるようにするなど、安全で柔軟な組織体制にすることが狙いだ。1月から新たに会員の募集も開始している。新基金の上田勝弘理事長(大垣精工社長)、鈴木教義理事長代理(鈴木社長)、小出悟制度検討・資産運用委員長(小出製作所社長)の3氏に、新制度のメリットや今後について語ってもらった。

予定利回り2%に

司会 新制度に移行した背景は。

上田勝弘 理事長(大垣精工社長)

上田 当基金は政府の厚生年金に加えて、社員の福利厚生に役立てようと1969年に発足した。その後、経済環境の変化に伴い、発足時のような高い利回りが得られなかったり、政府の代行部分の返上要請だったり、制度変更は必至の状況だった。そこでいったん解散し、制度設計を見直した。

司会 大きく変わったのはどんな点ですか。

上田 大きなものでは、無理なく運用するために4%の運用予定利回りを2%にし、掛け金率も0・9%から3%まで8つで自由に選択できるようにした。いったん解散をしなければ、こんな自由に制度設計はできなかった。

小出 そうですね。新基金では代行部分がなくなるので、独自に制度が確立できることが大きい。一方で、規模は縮小するのでこれまでよりリスクを冒せなくなる。運用のやり方を研究していかないとダメですね。

司会 鈴木社長は制度移行をどうみていますか。

鈴木教義 理事長代理

鈴木 退職金を平準化できて、公的年金等控除として全額損金計上できるのは大きい。企業単独で、ゼロから年金や退職金制度を見直すこともかなりな労力。0・9%から3%で、各社にあった掛け金率が選べるのもありがたい。

小出 掛け金を個人で差が付けられればもっと面白いですが、選択できるのは大きい。掛け金率を上げて、退職金として積み充てれば全額控除されるのはメリットが大きい。掛け金の額が多ければ多いほどリターンも大きくなるので上を目指していこうというマイン
ドを持てる制度だと思う。

社員のため基金が必要

司会 今回制度移行という形ですが、最近では解散する基金もあります。これをどう考えますか。

小出悟 制度検討・資産運用委員長(小出製作所社長)

小出 仮に基金がなければ経営的な負担も少なくなると思うが、年金基金を持てる企業や業界でなければならないとも思う。少しでも社員の福利厚生に貢献できるのであれば基金はあったほうがいい。健全に運用できる間は経営者も加入員にとっても貢献できると思う。

上田 年金基金は利益を上げている企業にとっては福利厚生費で税控除につなげられる。一方、経営が厳しい企業にとってみれば負担にしかならない。しかし、社員のための福利厚生費であるという考えが中心でないとダメだと思う。

退職金どう組合わせる

司会 退職金の話も出ましたが、企業年金基金は退職金を年金化することで税控除の特典も受けられます。一時金でも、年金としても受給できます。根本は退職金の分割払いです。そこで皆さんにお聞きしたいのですが、退職金制度をどのように規定されていますか。他にも中小企業退職金共済(中退共)や確定給付企業年金(DB)と確定拠出型年金(DC)などありますが、その変との併用はどうされていますか。

小出 当社は退職金給付の積み立てに加え、年金基金から一部を上乗せする形をとっています。積み立てのベースは中退共で、加えて保険の任意の退職金制度を活用しています。中退共でベースを作り、企業側の思いを入れられる制度という部分を保険にしています。基金、中退共、残りの評価を保険で出す。それでも足らなければ会社が出すようにしています。

鈴木 当社は上場しており、中退共は使えないので、確定拠出型と年金基金の組み合わせです。今回の制度変更でどういうメリットがあるのかを、社員に開示し、どういう変わるのかをきちんと伝え、教育していくのが目下の課題です。

上田 うちは基金と中退共です。それにプラスして、会社が積み立てている分ですね。この社内の積み立て部分が一番大きい。考え方としては、中退共は勤務してきてくれたことに対する基本退職金で、会社の積み立て部分で貢献度に応じて出しています。ただ、前提として、中小企業で働いた人の生涯を公的年金だけで保証するのは難しい。その上で、退職金規程をきちんと確立すべきだと思う。新たな企業年金基金を一時金として退職金に上乗せすることに加え、退職金制度そのものを見直すことも必要でしょう。

司会 皆さん企業年金基金を退職金の積み立てにも活用しているわけですね。ところで、年金として受け取るのか、一時金として受けとるのかはどう考えますか。

小出 一時金か、年金かという課題はありますが、新制度では5年から20年の選択制の有期になるので、一時金として考えたほうがいいのかなと個人的には思います。一時金として退職金に充てれば色んな控除が受けられることも多い。経営者としては、社員が退職して亡くなるところまで安心して年金として提供してあげたいですが、運用や制度的にも難しい。うまくやりくりしていくしかないですね。

労使で最善策を考えるべき

上田 社員の目線で考えると、年金としてもらえる金額はいくらなのか。会社からもらえる退職金はいくらなのかをきちんと考えるべきだと思う。退職後の10年、15年をどう生きていくのかを考える必要がある。旧制度で0・9%の掛け率しか選べなかった時は、40年近く勤めても一時金の上乗せは200万円程度。新制度では0・9から3%まで8種類選べる。今後労働期間が延びる可能性もあるので、一概に言い切れませんが、3%だと大体600万円の上乗せになる。こうしたことも含め、会社と社員にとって一番いい方法を模索していく必要がある。

年金に関する教育重要

司会 先ほど鈴木社長は年金や退職金制度についての教育が必要と言われましたが、基金や退職金制度をきちんと伝えていますか。

鈴木 入社時の社員研修で運用などゼロから教えていますが、若手は関心が低い。退職金計算もさせていますが、若いと年金がいくらもらえるなどということに興味がない。ある程度の年齢になれば総務部などに問い合わせているようですが、若いうちから学ぶことも必要ですが、なかなか難しい。

上田 うちは入社時に退職金制度があることは伝えていますが、何年でいくらになるかとは伝えていない。計算すればわかるけれど、景気の変動もあって給与がどうなるかは企業の成長によって変わってくるので、明確に算出するのは難しいですね。

小出 社員は目の前の給料と、最近では労働時間に関心があるので、なかなか年金制度のメリットを伝えるのは難しい。当社を引退した社員でも、受け取られてから感謝されるケースが大半ですね。

司会 難しいにせよ、年金制度が若手世代にどういう影響があるのかをきちんと伝えることは重要ですね。

小出 勤務期間の長さによって退職金は異なるということも伝える必要がありますね。20年いても40年いても同じということはない。長く働いてもらったほうが、退職金も多くなる。金型メーカーの技術者の育成には時間がかかるので、こうしたことも伝えなければいけないですね。

社員に仕組み伝える場を

上田 金型業界は他の製造業以上に長く働いてくれる人が多いほうがいい。長くいてもらうための退職金規程や年金は重要。経営者も従業員もそれを理解し、長く働いてもらうインセンティブを与える必要があります。保険を活用した積立などありますから、企業も個人も自ら勉強していく必要あるし、企業もそういう学ぶ場を提供していかなくてはならない。

司会 年金制度の意味をきちんと伝え、経営者と社員が学ぶ姿勢がより重要になりますね。本日はお忙しいところありがとうございました。

金型新聞 2019年1月10日号

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