金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

OCTOBER

19

新聞購読のお申込み

元本田技研工業 田岡秀樹氏に聞く【特集:自動車金型の未来】

電動化に3つの方向性

電動化やギガキャストで変わる自動車づくり。元本田技研工業で型技術協会の会長も務めた田岡秀樹氏は「自動車業界はゲームチェンジの局面を迎えており、破壊的なイノベーションが起きている」とみる。一方で「中小企業が持つコア技術が重要になる」と話す同氏に、自動車業界の変化や方向性などを聞いた。

田岡秀樹(たおか・ひでき)氏
1990年ホンダエンジニアリング(現本田技研工業)入社、2005年車体塑性研究科開発部長、10年執行役員、13年本田技研工業四輪事業本部設備金型企画推進室室長。現在は狭山金型製作所、エリコンジャパンなどのアドバイザーを務める。徳島県生まれ、66歳。

電動化の流れをどうみるか。

22年の自動車販売台数は8160万台で、電気自動車(EV)は520万台と約6%。ある調査では、30年には全体で1・19億台になると言われており、EVは3470万台と予想されている。

この数字は実現するか。

不確定要素が多く、30年に現状の500万台を7倍にするのは正直難しいと思う。電動化は進むが、全ての自動車メーカーが同じ動きをするのでなく、3つの方向に分かれる仮説を立てた。

3つとは。

BMWやテスラなどの「スーパープレミアムブランド」、トヨタに代表される「グローバルプレーヤー」、スズキなどの「グローバルサウスプレーヤー」の3つだ。30年に向け、プレミアムプレーヤーからグローバルプレーヤーの順に電動化は進む。一方、南半球を市場とするサウスグローバルメーカーは独自の商品戦略を展開していくとみる。

なぜこの順で電動化は進むのか。

投資の観点から見て明らか。電池、工場、EVプラットフォームの開発などを考えると、自動車業界全体で50~70兆円の投資が必要になると試算した。この投資に耐えられるのは内部留保が大きいか、販売価格が高く、高収益メーカーしかない。

2030年までの世界の自動車販売予測

ギガで変わる生産システム

ギガキャストも破壊的なイノベーションの一つで注目を集めている。

一体化するという考え自体は新しい話ではない。BMWが13年に発売した電動車「ⅰ3」では、客室部と駆動部に分割したモジュール構造を採用するなど一体化の考えが含まれている。今のギガキャストはこの流れに沿っていると思う。

一体化する狙いは。

車づくりのシンプル化と軽量化が目的。従来の車づくりでは、300~400の部品を溶接で組み立て、4000~4500の溶接打点がある。ギガでシンプルな構造になると、溶接を大きく減らせる可能性がある。また、アルミによる軽量化はバッテリーで重くなる電動車では不可欠だ。

ギガでも色々なアプローチがある。

トヨタが発表したリアとセンタとフロントの3分割が興味深い。車一体で鋳造するより3分割のほうが組み立ての作業性が良く、品質も安定する。自動車メーカーにとって、約240工程ある組み立てラインの簡素化は大きな課題。3分割でもラインも大幅に減らせるし、コスト削減効果も大きい。

また、ギガに加え、電動車が自走化したり、デジタルを活用したりしてコストや納期を半減させる「BEVハーフ構想」は生産システムを大きく変える可能性がある。

一気に変わるか。

トヨタは30年に350万台の電動車のうち170万台をBEVハーフで作るとしているが、30年までは先に言った3つの方向で段階的に進むので、一気には変わらない。

その前にもっとできることはある。例えば、複雑な構造部位やインナーパネルの一体成形、差圧外販樹脂パネル、異材接合など、中小企業が持つコア技術をオープンイノベーションで集結させることが重要だ。

金型新聞 2024年1月10日

関連記事

リーダーの条件[part1] 経営のカリスマが心掛けていること

サイベックコーポレーション 顧問 平林 健吾氏  1944年生まれ、長野県出身。工作機械メーカー、プレス部品メーカーを経て、73年に信友工業(現サイベックコーポレーション)を設立。2009年顧問。18年旭日単光章を受賞。…

【特集】5つの視点から探る プラ型のあした<br>日本のお家芸復活のカギは

【特集】5つの視点から探る プラ型のあした
日本のお家芸復活のカギは

 今なおリーマン・ショック前の7割の生産額―。プラスチック金型は、リーマン前の水準に戻った鍛造型や8割のプレス金型などと比べると回復していない。技術力、そして生産力でも圧倒的に世界をリードした「日本のお家芸」の復活のカギ…

米山金型製作所が「微細成形ラボ」を設立するワケ

微細成形ラボを設立 量産化までの支援サービスを提供 自動車や医療などの精密プラスチック射出成形用金型を手掛ける米山金型製作所は今年9月、微細成形技術が提供可能な「微細成形ラボ」を設立する。既存設備よりも大型の射出成形機を…

座談会 全景

新春座談会
金型メーカー4社が語る
新時代の経営戦略

独自の力を醸成 壁を乗り越える 新時代の経営戦略 座談会出席者(50音順) 伊吹機械 伊吹宏一営業部長  事業の80%がプレス金型、20%がプレス金型組込産業機械。プレス金型はこの20年で自動車関連の仕事が大幅に増え、7…

「微細加工分野に注力」GFマシニングソリューションズ社長・ローラン・キャステラ氏

放電加工機やマシニングセンタ(MC)、自動化システムなどを手掛けるスイス・GFマシニングソリューションズ。今年1月、日本法人(東京都品川区、03-5769-5010)の社長にローラン・キャステラ氏が就任した。今後、金型メ…

トピックス

AD

FARO スキャンしたらすぐに結果まで:工数低減を実現

金型のメンテナンス、修復、複製に3次元測定アームを活用 製品を製造するために欠かせない金型ですが、そのメンテナンスには多くの課題が存在します。金型は使用するうちに摩耗し、時... 続きを読む

関連サイト