金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

APRIL

29

新聞購読のお申込み

【鳥瞰蟻瞰】長野県南信工科短期大学校 准教授・中島 一雄氏「調べ、試し、失敗を繰り返しながら挑戦」

技術者の教育には
考えさせることが重要
DXで一層必要になる

分かっているものに取り組んでいても技術者としての成長はありません。自らで調べ、試し、失敗を繰り返しながら挑戦していくことこそが技術者の根幹であり、何よりも重要なことだと思います。

これまでの教育機関では正解に導くための指導を行ってきましたが、それだけではこれからの生産現場で活躍できる人材は育ちません。その過程でいかに考え、工夫させることができるか。技術者の教育、育成にはこうした取り組みが必要だと考えています。

長野県南信工科短期大学校(長野県南箕輪村)は技術者の育成を目的に2016年に開校されました。私は同校の立ち上げから携わり、現在は機械システム学科(機械・生産技術科)で主に機械加工や設計、制御技術を教えています。

開校にあたり特にこだわったのは、より実践的な技術が身に付くカリキュラムづくりです。授業の約6割を実習と実験とし、座学で勉強したことを実践できる時間を多くとりました。そのため、各種実験装置や3Dプリンタ、3軸・5軸マシニングセンタ、NC旋盤など実習設備を充実させ、学生たちが少しでも多く機械に触れられる環境を整えています。

数ある実習授業の中でも特徴的な授業の一つが「総合課題」です。この授業は1年生の秋から約半年かけて学生自身が作りたいものを自由に企画してものづくりを行います。機械システム学科と電気システム学科(電気・制御技術科)の学生が合同でグループを作り、予算も設定して、授業を進めていきます。

結果は重要ですが、この授業に正解はなく、重視しているのはその過程です。たとえうまくいかなかったとしても、自分で考えて、調べて、仲間と協力することで得られるものは大きいと考えています。

当校のカリキュラムは今必要な技術とこれから必要な技術が学べる内容になっています。機械の使い方や加工原理など現在の機械分野で必要な知識や技術だけでなく、デジタル技術といったこれからの生産現場でより求められるようになる知識や技術についても教えています。

その一つが3Dデータです。当校の学生は入学後3カ月ほどで3DCADの使い方を学びます。単なる使い方だけでなく、外部講師を招き、3DCADソフトウェア「ソリッドワークス」の認定試験も取得しています。

これからのものづくりは、3Dデータを起点に色々な工程に派生していくと考えています。CAMやCAE、3Dプリンタはもちろん、2D図面も3Dデータが起点になっていくでしょう。鉛筆の持ち方を教えるのと同じように、3DCADの使い方を教える時代になったと感じています。

地域企業のスワニー(長野県伊那市)が開発した3Dプリンタで造形する樹脂製金型「デジタルモールド」を取り入れた金型の教育もその一環です。3Dデータを使って、デザインから金型設計、加工、成形までの一連工程を学ばせています。また、私の研究室では3Dプリンタ活用技術の開発などに取り組んでいます。最近では当校とスワニーおよび粉末冶金技術を持つナパック(長野県駒ケ根市)の共同研究で、新しい金型製作法「デジタルモールド粉末冶金」も開発しました。

ものづくりは大きく変化しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味が広がり、製造現場でもAIやセンシング技術の活用が進んでいます。技術者もこれまでの延長線上にない未知の分野、領域に挑戦しなければいけない時代になりました。こうした時代で一層必要となるのは、自分で考え、実践できる人材です。そうした人材を育てていくことが私たちの使命だと考えています。

金型新聞 2021年11月10日

関連記事

横田悦二郎氏

【プレス型特集】強みを維持し続けるには…
日本金型工業会 学術顧問 横田 悦二郎氏に聞く
プレス金型の強みと未来

ゼロベースで知恵絞る 得意な分野で連携を 顧客の生産技術をサポート  日本金型工業会の学術顧問を務める、日本工業大学大学院の横田悦二郎教授は、日本のプレス金型の強みを「他の型種に比べ、技術の蓄積が生かせる部分が大きい」と…

【この人に聞く】トーヨーエイテック 表面処理開発担当役員・山中 敏雄氏「アルミの凝着抑える新被膜 」

トーヨーエイテック(広島県南区、082-252-5212)が今年2月に発表したアルミのプレス金型用DLCコーティング「TOYO Arc‐DLC」。高硬度で強固に密着するため、軟質で融点の低いアルミをプレス加工しても金型に…

【この人に聞く】ケイパブル 河原洋逸社長 海外取引、営業を支援

 CAPABLE(ケイパブル、京都市南区)はこのほど、金型の受発注プラットフォーム「CAMPUS(キャンパス)」を立ち上げた。金型メーカーはキャンパスに設備情報などを登録し、ケイパブルが受注した仕事をキャンパス内の最適な…

ハマダ工商 AMで新たなものづくり【金型の底力】

樹脂やプレス金型の製作から少量の成形まで手掛けるハマダ工商は今年2月、事業再構築補助金を活用し、金属3Dプリンタを導入した。水管を自由に設計した冷却効果の高い金型で、反りを抑えた防犯レンズカバーの成形品を提供するのが狙い…

木谷電器 木谷健一郎社長に聞く 要望ヒントに金型開発

端子や太陽光発電関連機器を手掛ける木谷電器(大阪府枚方市、072・855・1492)は、取引先の要望をヒントに新たなプレス金型の研究開発に取り組む。時代のニーズに応えるプレス技術を開発し、未来を拓く新しい事業に発展させた…

トピックス

関連サイト