金型業界のいまを届けるニュースサイト「金型しんぶんONLINE」

OCTOBER

05

新聞購読のお申込み

日本流のギガ確立へ【特集:ギガキャストの現在地】

自動車の構造部品を大型のダイカストマシンで一体鋳造する「ギガキャスト」。部品点数の減少など、金型づくりに大きく影響する可能性があることから注目を集めている。すでにトヨタ自動車を始め、複数の自動車や部品メーカーらが参入を表明するなど開発が進む。しかし、金型搬送の問題、熱処理を含む材料の問題、既存設備を生かす必要があるなどの日本固有の課題が指摘されている。ギガで先行する中国など海外とは異なる日本なりのギガキャストのあり方が見えてきた。

型輸送、 熱処理に課題

ギガキャストには明確な定義がない。テスラが導入した6100tのダイカストマシンを「ギガプレス」と呼ぶようになり、その後6000t以上のマシンを使うダイカストをギガキャストと呼ぶように定着したとする見方が多い。

ギガのメリットの一つはテスラが70点の部品を1つに集約したように部品点数の削減にある。ある自動車メーカーの生産技術者は「自動車メーカーは溶接打点を減らし、工場のラインを短くしたい」という思いが常にあるという。ギガはこれにつながることから、日本の自動車業界でも参入表明が相次ぐ。

トヨタがギガキャストで生産したリア部品(右)と従来製法でのリア部品(左)。部品点数と工数が大幅に減る(トヨタ自動車提供)

トヨタでは2026年の車種からギガキャスト部品の採用を目指す。ホンダは6000tクラスのマシンを栃木の拠点に導入し、実証を進めている。日産自動車も参入を表明し、10%のコストダウンと20%の軽量化を目指すという。

部品メーカーも同じ流れだ。リョービは静岡県の工場にUBEマシナリーの6500tのマシンを今秋にも導入するほか、アイシンでは30年にギガ関連部品の売上高3000億円を目指す。

ギガを巡る動きが活発化してきたとはいえ緒に就いたばかり。技術的な難しさに加え、日本特有の問題から、先行する海外とは異なる動きになりつつある。

その問題の一つが金型の運搬。道路運送車両法では25t以上の重量では許可申請が必要になる。ギガキャスト向けの金型は組み付けると100t以上のものもある。金型を移動させることは実質的に難しい。

もう一つが熱処理を含む材料問題だ。ギガ向けの金型の熱処理には10t近くの材料が入るような炉が必要になる。しかし国内にはそこまでの炉がない。また、焼入れには10barを超えるほどの高圧にする必要があるが、さまざまな規制があり、大型炉を用意するにはコスト高になる。

そして、もう一つ課題は既存設備を活用したほうが、経済合理性が高いということ。ギガになると100tを超えクレーンや、大型のダイスポが必要になり、投資負担も大きい。この投資に耐えられる企業は多くない。

また、国内には3000tクラスのマシンが数多く存在する。トヨタ自動車の素形材技術部の門野英彦鋳造領域統括主査も「既存のアセットを活用できるような設計にする必要がある」と指摘している。

こうした課題から、国内で中国のように10000t以上のマシンの活用は考えにくい。ギガに挑む小出製作所の小出悟社長も「日本では製品設計の段階で、分割されメガキャストが主流となる。中国のように1万トン以上の設備は存在できない」とみる。6000tから9000tクラスのマシンで、金型を多数に分割するとの見方が大半だ。

金型をいくつに分割するのか、どういう構造にするのかー。そのあたりが自動車メーカーの競争領域になりそうだ。一方、金型では新たな需要が生まれる動きもある。中国でギガ向けの金型を手掛ける共立精機の林裕社長は「分割になると入れ子の数は増える」とし、「1社でカバーできる量ではない」と話す。さらに高度な冷却が求められるため金属3Dプリンタを使った複雑な水管を配置した入れ子も必要になるなど、ギガによって新たな加工や需要が生まれる可能性も高い。

金型新聞 2024年9月10日

関連記事

金型製作の効率化を追求 笹山勝氏(ササヤマ社長)【特集:次の10年を勝ち残る4つの道】

EV化などによる金型需要の変化やAMをはじめとする新たな製造技術の登場など金型産業を取り巻く環境はこれまで以上に大きく変化している。金型メーカーには今後も事業を継続、成長させていくため未来を見据えた取り組みが求められてい…

ハイテン加工のカギはCAE【特集:プレス加工最前線】

スプリングバック、材料特性のばらつきに対応 ハイテン材加工に不可欠とされるCAE解析。すでに多くの金型メーカーが活用し、生産性や品質の向上につなげている。近年は自動車部材のハイテン化が進み、これまで以上に強度の高い超ハイ…

自動車の電動化想定し、大型で複雑・高精度なプレス技術を開発[プレス加工技術最前線]

自動車の電動化や軽量化ニーズの高まり、短納期化、熟練作業者の減少など、プレス加工を取り巻く環境は大きく変化している。プレス加工メーカーへの要求も高度化しており、これまで以上に技術革新を進め、変化するニーズに対応することが…

横田悦二郎氏

【プレス型特集】強みを維持し続けるには…
日本金型工業会 学術顧問 横田 悦二郎氏に聞く
プレス金型の強みと未来

ゼロベースで知恵絞る 得意な分野で連携を 顧客の生産技術をサポート  日本金型工業会の学術顧問を務める、日本工業大学大学院の横田悦二郎教授は、日本のプレス金型の強みを「他の型種に比べ、技術の蓄積が生かせる部分が大きい」と…

【特集】日本の金型業界に必要な4つの課題 -事業承継-

PART3 狭山金型製作所 社長・大場治氏に聞く「事業承継」 60歳で「引退宣言」経営以外にやりたいことを「朝活」で考え方を伝える 55歳の時に60歳で社長を退くと社内外に「引退宣言」をしました。今59歳なので、あと1年…

関連サイト