参画企業とともに成長 ワークスは、世界で前例のないガラス製マイクロレンズアレイ(MLA)の金型とそれによる生産技術の開発でレンズや素材メーカーと連携する。ガラス製MLAはディスプレイや投影機、自動車のライトなどの小型化や…
特集〜世界需要をどう取り込む
どう取り込む 変わる金型の世界地図
国際金型協会(ISTMA)の統計によると、2008年以降の10年近くで金型生産額は約3割増加した。新興国の経済発展に伴う消費財の需要増や、自動車の生産台数の増加などを背景に金型需要が拡大したからだ。ただ、かつて日本が金型大国と言われた時とは世界が全く異なる。09年に中国が日本を追い越し世界一となり、今や世界中に金型を供給する。輸入国だったアジア諸国やメキシコが金型の生産を増やし始めている。金型は経済発展が続く限り、効率的な量産のツールとして成長していくだろう。ただ、ユーザーのグローバル調達、コロナによる供給網の見直しなどによって、生産国や需要地など金型の世界地図は大きく変化している。ISTMAの統計などを参考に、金型主要地域の動向をまとめた。
世界 –世界の金型生産760億ドル–
世界19カ国・地域の団体が加盟する国際金型協会(ISTMA)が発表した「2018年度版の統計ブック」によると、10年代後半の世界の金型生産額は約760億ドルとなった。タイやメキシコなど非加盟国もあるため、8~9兆円程度とする見方もある。
トップは急成長する中国で3割以上のシェアを密。アメリカが治具などを含むため2位となり、日本は3位に留まった。全体的にアジアの伸びが目立つが、上位10カ国で全体の9割以上を占める構造は変わらない。
日本はリーマン後、緩やかに回復
日本の金型生産は2008年から17年の10年間で、リーマン・ショック後の落ち込みから緩やかに回復してきた。10年に1兆873億円まで落ち込んだが、そこから右肩上がりで推移し、17年には1兆5257億円という水準まで戻した。とはいえ、2兆円近くあったピーク時に比べるとその生産額は7割ほど。市場規模は縮小していると言わざるを得ない。
また、これまで日本は輸出が極めて多かったが、ここにきてその形が変化しつつある。輸出額が12年からほぼ横ばいで推移する一方、輸入額は09年から増加の一途をたどっている。理由は様々考えられるが、少なくとも金型生産国の多様化が進んでいることは間違いない。
かつては世界一の生産額を誇り、『金型大国』と呼ばれた日本だが、世界との競争は今後さらに激化する。日本メーカーには、そうした環境下でも負けない事業戦略と企業づくりが求められる。
躍動する4地域 広がるチャンス中国 –年250億ドルの金型生産–
2009年に世界一だった日本の生産額を抜いてから増え続ける中国の金型生産。16年の生産額は約250億ドルと08年からほぼ倍増の規模にまで成長した。
型種別でみていくと、圧倒的な地位を確保したのがプラスチック・ゴム型。16年の生産額が121億ドルと日本の金型総生産額と同程度の規模だ。特徴的なのが、輸出の強さ。16年の輸入額は9億ドル程度に対し、輸出額は36億ドルと、ほぼ4倍に達している。一方、16年のプレス型の生産額約100億ドル、鋳造型27億ドルと増加しているものの、プラスチック型に比べ、輸出比率はそう高くない。
金型世界一となった中国だが、「変化点にある」(長津製作所の牧野俊清会長)という見方は多い。米中貿易摩擦によるチャイナプラス1や、人件費高騰が背景にある。日本金型工業会学術顧問の横田悦二郎氏は「かつての日本で、東京の製造業者が地方に移転したようなことが起きる可能性もあり、今後注視が必要だ」と指摘している。
メキシコ –高まる需要、インフラに課題–
北米向けの自動車生産拠点としての地位が高まり、メキシコの金型需要は高まっている。生産統計はないが「現地、外資系含めると200社以上の金型メーカーがあり、フィリピンを超える規模」(日本金型工業会で国際委員を務める事業革新パートナーズの茄子川仁社長)で、生産も増加傾向にあるのは確実のようだ。
しかし、17年の貿易統計をみると、いまだに金型輸入が輸出の10倍近くあり、あくまで金型輸入国。「金型需要が供給を上回っている」(茄子川社長)状態で、金型の現地生産化のニーズは高い。
課題はものづくりのインフラ。七宝金型工業の松岡寛高社長は「人材の定着の問題や、金型に必要なインフラが整っておらず、輸入に関する間接費も高いため、型費が高くなる傾向にある」。
とはいえ、世界中の自動車メーカーがメキシコを北米向けの生産拠点や、南米への橋頭保と位置付けており、部品メーカーの進出も増えている。金型の需要地、生産拠点としての地位は年々高くなっている。
アジア –増える金型、競争厳しく–
アジアの経済成長は続いている。19年のGDPの成長率をみても明らかで、カンボジアの7%を筆頭に、ベトナム6・8%、ミャンマー6・6%と続く。経済成長は中間層の形成につながり、消費財需要が伸びる。こうした背景から、横田悦二郎氏は「一括りにはできないものの、アジアの金型需要は増え続ける」という。
課題はこの需要をどこが取り込むかということ。直近で比較できる生産統計がないので、金型生産力は見えないが、貿易統計をでは日本の存在感の低下が鮮明になっている。
例えばベトナムのプレス型。2012年は日本が最大の輸入国だったが、16年は韓国がトップ。タイのプラスチック・ゴム型の輸入国も12年は日本が一位だったが、16年には中国が僅差でトップになっている。インドネシアのプラスチック・ゴム型も17年には中国にトップの座を譲っている。
横田氏は「アジアの金型供給国は、中国・韓国・台湾・日本に加えマレーシア・タイぐらい。これらの国々との競争が激しくなる」と指摘している。
欧州 –域内で全てをカバー–
横田氏は「ヨーロッパは1国ずつではなく、全体で見るべき」と指摘するように、多様性に富む。けん引役となっているのが、プレス型のドイツ、プラスチック型のポルトガルだが、イタリアのダイカスト型、ITのエストニア、精密加工を得意とするスイス、治工具のスウェーデンなど特徴のある国が多い。欧州全域で見ると「金型に必要なもの全てそろうのがヨーロッパの特長」(横田氏)だ。
一方で、域内で金型を調達しやすかったり、アジアからの輸入に対抗したりするため「ある意味で保護主義的な側面がある」(茄子川仁氏)と指摘する。
だからといって、好機がないわけではない。
欧州で営業するプレス型の大貫工業所の大貫啓人社長は「機械加工技術は高いがプレス加工はそうでもない。勝ち目がある」という。
欧州企業と取引のあるプラスチック型の狭山金型製作所の大場総一郎常務は「超高精度な領域に引き合いはある」とし、やり方次第では参入できそうだ。
金型新聞 2020年7月1日
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